にっぽんの旅 東海 静岡 吉原

[旅の日記]

吉原 

 「田子の浦に うち出でて見れば白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつ」で有名な、静岡県田子の浦、本日はJR吉原駅からの散策です。
うまいしらす丼を食べたい。JR吉原駅に降り立ち店を探しますが、食堂自体がありません。
やっと見つけた1件のお店もどうやら閉まっているようで、食にありつくことができません。
しかたなく、先を急ぐことにします。

 岳南鉄道の吉原駅は、JRの北隣りの人気のないところにあります。
路線で食事のできるところを尋ねると、吉原本町駅が一番栄えているということなので、2駅分の切符を買うことにします。
30分に1本の電車の発着は、ローカル線にすれば標準的なものでしょうか。
のどかな吉原駅のホームのベンチに座り、電車が来るのを待ちます。
ほどなくして到着した電車は、先頭が流線型のオレンジ色の車両です。
もちろん1両編成の期待通りの電車です。
車内に乗り込み、発車の時刻を待ちます。

 かつて京王電鉄で走っていた車両が、音を立てて走り出します。
ワンマン運行で、先頭の運転席脇の扉から出入りしなければなりませんが、乗車した終着駅の吉原駅、そして次に降りる吉原本町駅には改札があり、検札を気にすることなく乗り降りができます。
吉原本町駅は沿線一の町だけあって、駅前からは商店街らしきものが続きます。
吉原本町通りを、西へ西へと進んでいきます。
通りの両側にはお店が並びますが、特ににぎやかでもなくのどかな街並みが広がっています。
しらす丼はなかったものの、海鮮丼をやっているお店を吉原中央駅の近くで見つけ、そこで食事を取ることにします。
吉原中央駅と言っても、それはバスの停留所のこと。名前から想像するような電車のターミナル駅とは違います。
喫茶店風の店内にはテレビの音が鳴り響き、昼の番組を見ながら海鮮丼のできるのを待ちます。
そして出てきた丼は、マグロの赤色、エビのオレンジ、純白のイカと卵の淡い黄色が実にきれいです。
さすが海が近い町だけあって丼に盛られた魚は新鮮で、あっという間にお腹に入ってしまいました。

 再び吉原本町駅に戻るのですが、途中で天神社に寄ってみます。
朱色があざやかな社殿をもつこの神社は、吉原地区最古の神社です。
1193年には源頼朝が富士の巻狩の際に立ち寄ったとされていますが、建立の時期は定かではありません。
東海道の吉原宿で栄えたこの町ですが、今は吉原祇園祭として昔の風習を受け継いでいます。

 ふと北の空を眺めると、そこには富士山の雄大な姿が。
頂きには雲がかかっていますが、上半分に雪が被った典型的な富士の姿をしています。
いつもこんな光景を見られるこの地域の人々はうらやましいなぁ、って思ってしまいます。

 吉原本町駅から目指す比奈駅までは、これまた3駅の短い距離です。
駅前の踏切の音が鳴りだすと、電車が来たしるしです。
またもオレンジ色のあの電車に乗り込み、ローカル線に揺られ行きます。
今度は製紙工場の間をぬけて、電車は曲がりくねった線路を走ります。
まるで工場の構内を都合よく潜り抜けているように、間近にプラントの建物があります。
少しハラハラしながらも、電車は比奈駅にたどりつきます。

 比奈駅はホーム1つの小さな駅です。
しかし工場への引込線が集まっており、線路だけは何本も並んでいます。
駅を降りて周りを見渡しても、白い煙をもくもくと噴き上げる製紙工場の高い煙突があちらこちらに見えます。
この工場に囲まれた田舎の町を、北に向かって歩いていきます。

 ほどなくすると、坂道の途中の左手に御崎神社が見えます。
「おみさきさん」の名で親しまれている神社は1177年の創建で、1180年の富士川の戦いの際に源頼朝が幣を奉じたとも伝えられています。

 さらに先に進むと、交差点に先に中学校の立派な校門が見えます。
ここを右折したところに、竹採取公園があります。
いわゆる「かぐや姫伝説」の発祥の地と言われる公園で、園内には竹藪が広がっています。
ただし竹取物語は、京都府京田辺市や奈良県北葛城郡広陵町も名乗りを上げており、現在は奈良が発祥の地として有力視されているのも事実です。

 帰りには、来た道を中学校の校門がある交差点まで戻り、道向こうの滝川神社に立ち寄ります。
そういえば、この辺りには富士山の豊かな湧き水が豊富なのか、小川が流れ水のせせらぎを多く目にします。
滝川の名もそんなところから来ているのかもしれません。
神社にお参りをしてからというもの、比奈駅まではそんな小川の水の流れを探しながら歩いていきました。

 比奈駅では、貨物の機動車の運転体験が行われていました。
料金はかかりますが誰でも応募でき、比奈駅の普段使われていない線路で機動車を運転できます。
もちろんプロの機関士が付き添っての運転ですが、機関士は運転を教えてくれたり写真も撮ってくれますので、頼もしい存在です。
何回か往復を繰り返し、運転体験は終わります。
ホームで吉原行の電車を待つ間、童心に戻って機関車を操っている若者を見て、ローカル線を乗るために渡り歩く自分の姿が重なって見えてならないのでした。

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