にっぽんの旅 東海 静岡 二俣

[旅の日記]

天竜二俣の転車台 

 浜名湖の北側を走るローカル線があります。
掛川から天竜二俣を通り新所原に抜ける路線です。
今日はその天竜浜名湖鉄道に乗り、駅々をのんびりと巡ります。

 いまでこそ乗客も少ない1両編成の単線ですが、かつては東海道に代わる大動脈の片肺だったところです。
国鉄時代にこの路線は二俣線と呼ばれ、戦時中に東海道本線が被災したことに備えて造られた路線なのです。
1両編成の単線の列車は、ディーゼルエンジンの音を露わにして走り回ります。

 天竜二俣駅は、栄えていたころの国鉄二俣線を思い出させるような、長いプラットホームをもつ駅です。
ホームの奥には、床面が30cmほど低く下がったところがあります。
今は使われていませんが、昔の蒸気機関車が停まっていたところです。
天竜二俣駅は上り、下りのそれぞれにホームを有し、駅全体が広々としています。
そして、そこには木目が懐かしさをさそう木製のホームを覆う屋根が備わっています。

 改札を出ると、そこにも昔ながらの駅舎が姿を現します。
木をむき出しにした駅舎と、今は少なくなってきた円柱の形をした郵便ポストです。

 さて今回天竜二俣駅にやって来たのには、訳があります。
昨日のことです、天竜浜名湖鉄道のホームページを眺めていると、「転車台・鉄道歴史館見学ツアー」なるものを見つけたのです。
かつて蒸気機関車が走っていた時の方向を変えるための転車台がここには残っており、それを見て回ることができるのです。
言い方を変えると、そのツアーに参加しなければ転車台を見学することができないのです。
駅の切符売り場で、ツアーへの参加券を購入します。
参加したツアーは20名ほどの集まりで、転車台が気になる年配、そして電車の好きな子供の加わった一団です。
ツアーは駅の向こう側の操作場まで歩いて行きます。

 まず目にするのが、貯水槽です。
高架の槽に水を貯え、蒸気機関車で使う大量の水を一気に積み込むためのものです。
今は使われていませんが、当時の姿のままで保管されています。

 その奥には事務棟が並んでします。
味のある木製の事務棟の間を進むと、建物の窓から浴槽が見えます。
蒸気機関車の煙でまみれたすすをここで洗い落とすための、乗務員専用の風呂場です。
洗い場にはかつて使用していた列車の先頭に掲げるプレートが飾られています。

 さらに足を進めるとそこには円形車庫があり、列車が停車しています。
さていよいよこのツアーのメインイベントの始まりです。
円形車庫の中央にある転車台に、1両の車体が入ってきます。
ちょうど1両分の列車が乗るだけの転車台に、器用に車体が停まります。
すると転車台がゆっくりと回り出します。
目的の車庫の前まで移動すると、静かに回転が止まります。
転車台のレールと車庫までの引込みレールが、ぴったりと合わさります。
列車は何事もなかったかのように、平然と車庫に入って行ったのでした。

 円形車庫の脇には「鉄道歴史館」があるので、ここに入ってみます。
二俣線の写真やかつて使われていた道具が展示されています。
その中でも目を引いたのは、当時の時刻表と切符売り場で切符を保管するための棚です。
今となっては見たこともない若者もいるでしょうが、昔の分厚い切符が入った棚です。
懐かしさに酔うことのできる、ひと時でした。

 転車台の見学の終えて、ここからは二俣の町を散策してみます。
駅の外には、国鉄二俣線時代に活躍した車両が展示されています。
赤い車体のキハ20は国鉄を代表する車両で、ここで25年間走り続けた英雄です。
この辺りが「光明電気鉄道二俣口駅跡」のはずです。

 さらに足を進めてみます。
天竜川に合流する二俣川に架かる橋を越えていきます。
川辺ではキャンプに来た家族が、楽しそうに水遊びをしています。

 その先が、二俣の中心街です。
と言っても地方の駅のこと、人に出会うわけもなく静かな通りに車だけが行き交います。
その先に「諏訪神社」があります。
夏祭りでは屋台の「御殿屋台」がこの神社から曳き廻され、二股の町を練り歩くところです。
遠州地方でも最大級の祭りで、屋台は13台を数えます。

 そして「諏訪神社」の脇にある目新しい建物が、「本田宗一郎ものづくり伝承館」です。
静岡県磐田郡光明村(現在の浜松市天竜区)の鍛冶屋の長男として生まれ、本田技研工業を創業した人物です。
子供のころから好奇心旺盛で、その意欲と行動力が国産オートバイを作り上げるまでの物語が展示されています。
生粋の技術者で、やり始めたことは決してあきらめない彼の生きざまが伝わってきます。
館内にはいろいろなバイクが展示されていますが、やはり1番親しみが持てたのがホンダ・スーパーカブでしょう。
街のどこを見ても走っていたバイクで、このフォルムは古さを感じさせないのが不思議です。
従業員20人でスタートしたホンダが、今や自動車のみならずジェット機まで造るのですから驚きです。
そんな宗一郎の足跡を示す伝承館なのです。

 小さな二俣の町ですが、かつては二俣線のターミナルとして大いな賑わいをみせたところです。
ただ単にローカル線の旅を楽しむだけのところを、天竜浜名湖鉄道のホームページで見つけたツアーで今回の旅が大きく変わりました。
ふと思い立って転車台を見に来た割には、珍しいものを見ることができたのです。
しかも町を散策して本田宗一郎に巡り合うことができた二俣だったのでした。
     
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