にっぽんの旅 東海 静岡 熱海

[旅の日記]

湯の町 熱海 

 東京から2時間の温泉町、熱海を訪ねてみます。
JRで直接熱海まで向ってもいいのですが、昔住んでいた厚木周辺を眺めたかったがために、新宿から小田急で小田原へ、そこからJRに乗り換えて熱海という行程を取ります。
それと、この方が運賃が安いのも魅力です。
乗り継いだにもかかわらず、JR1本で行くよりも安いなんて、不思議ですよね。

 熱海駅の改札を出て、ロータリー右手には仲見世名店街のアーケードが広がっています。
その入り口には、「熱海軽便7号機」と呼ばれるSLが展示されています。
丹那トンネルが開通した今でこそ御殿場線となっていますが、当時の地形が険しい小田原・熱海間の25kmの距離を2時間40分かけて走っていたのです。
皇族や政界の大物など一部の特権階級だけが訪れる熱海でしたが、トンネルの開通後は庶民が気軽に来ることのできる一大保養地となって発展してきた熱海です。

 それでは、ロータリーから延びる仲見世を進んでいきます。 ひもの、温泉まんじゅうを眺めながら、名店街の下り坂を進んでいきます。
アーケードが切れた所でバス通りと交わり、仲見世入口のバス停が見えます。
熱海の街は、バスに乗って回るほどもなく、そのままバス通りを進みます。
ただ坂の多いのが難点、坂の両側にはぎっしりと温泉宿が並んでいます。

 この辺りには多くの場所で湯が湧き出ているのですが、今日は市役所方向にまっすぐ進みます。
そして辿り着いたのが、「起雲閣」です。
1919年建築の建物で、「海運王」の異名をもつ実業家 内田信也の別邸です。
麒麟の間は、大正時代を想わせる伝統的な日本建築の造りをしています。
その後は「鉄道王」根津嘉一郎によって洋館と庭園が整備されました。
ローマ風風呂もこの時に造られました。
その後も所有者が変わり、しばらくは旅館として営業していました。
現在は「起雲閣」として、今に残る立派な建物と庭を公開しています。
     

 本日はこれで温泉に浸かって夕食にします
港町に来たからには、本日の締めくくりは魚料理でしょう。
ただ温泉町であるが故どの店も値段が高く、その結果選んだのがアジの造り定食でした。
2匹のアジの身を盛った皿でしたが、たかがアジと思いきやそれは美味しいものです。
「えー、アジってこんなに美味しかったんだ」と感心させられてしまいました。
もちろん、ビールが進んだのは言うまでもありませんが。

 翌日は 熱海七湯を順に訪れてみることにします。
まず向かったのが「清左衛門の湯」です。
農民の清左衛門という者が馬を走らせて、この湯壷に落ちて焼け死んだということで、その名が付きました。
バス通りから少し入った道の脇にひっそりとあるので、なかなか気づきませんでした。

 さらにバス通りを下って行くと、坂の途中に「風呂の湯・水の湯」なるものがあります。
風呂の湯は、名前の示す通り昔は湯気が立ちあがり、まんじゅうを蒸したり酒を温めたりしていたということです。
一方水の湯の方は、塩気のない温泉が湧き出ていたので、純白で真水のようだという意味でこう呼ばれていました。

 坂を下りきった所の交差点には、古いたたずまいを残した店が信号の両脇に建っています。
ここで左折して10〜20mのところに、「佐治郎の湯」があります。
別名を「目の湯」とも言い、眼病にも効くということからこう呼ばれるようになりました。
元々は、佐治郎の邸宅内にあったということです。

 今下りてきたバス通りに平行して走る1筋違いの通りの道沿いには、「小沢の湯」があります。
こちらの別名は「平佐衛門の湯」といい、沢口弥左衛門、藤井文次郎、米倉三左衛門の庭から出た湯です。
今でも湯気が吹き出ており、向かいの商店に声を掛ければ卵をゆでてくれます。

 そしてニューフジヤホテルの正面には、「大湯」があります。
ここは間歇泉で、湯と蒸気が交互に吹き上げるところです。
ところが明治時代から次第にその間隔も広がり、とうとういつ吹くかも判らない状態になってしまいました。
訪れたときにも何名かが吹きあがるのを待っていましたが、とうとうその姿を見ることもできませんでした。

 しかし、その数10m先には「湯前神社」があります。
鳥居をくぐると、そこには湯気を濛々とあげている手水場があります。
水の代わりに温泉から枠出す湯を使っている所とは、いかにも温泉街熱海らしいです。
江戸時代には、この湯を江戸の将軍家綱のもとまで毎日急ぎで届けられていたということです。
熱海の温泉街の湯の神様として崇められています。
その他にの「野中の湯」を含めて、熱海七湯と呼ばれています。

 ここでお昼にしましょう。
魚を食べられる珍しい郷土料理があると聞いて、その品がある店を探します。
「まご茶漬け」と言って、マグロの刺身をご飯の上に乗せ、出汁を掛けていただきます。
マグロの良いところを選んで並べたようで、魚の臭みは感じられません。
あられやゴマ、刻み海苔も加わり、そこにワサビを落として食べやすいものになっていました。

 さてここからは、ニューフジヤホテルの裏手を流れる糸川に沿って海まで下りて行きます。
河辺の道は、表通りの賑やかさはなく川の両側の石畳の道は、静かさを保っています。
国道135号線を越え、海まで突き進みます。
海岸沿いは、防波堤の上が整備された遊歩道になっている「なぎさ海浜公園」です。
海を見下ろすベンチには観光客や散歩途中の人が休憩し、アベックが楽しそうに語らっています。
海に目を向けると、多くのヨットが次の出港まで停留しています。
のんびりとした雰囲気につられて、ゆっくりと北に歩いていきます。

 ヨットハーバーが切れたところで、向こう側の砂浜との境にあるのが「ムーンテラス」です。
潮風が当たり心地の良く、相模灘が一望できる海に突き出た休憩スポットです。
そして右手の丘の上には、熱海城を眺めることもできます。
ここで、海を見つめてしばらくの休憩を取ることにしました。

 そういえば、この辺りに「お宮の松」があるはずです。
「熱海サンセットビーチ」の歩きにくい砂浜を避けて、国道沿いを歩いてみます。
この辺りが、尾崎紅葉の小説「金色夜叉」の主人公貫一とお宮が散歩したところなのです。
国道沿いに、目的の松の木があります。
そしてその横には、別れの名場面である「貫一・お宮の像」があり、多くの観光客が像をバックに写真を撮っていました。

 さて熱海の街も一通り歩き終えた後は、再び熱海駅に戻ることにします。
ところが「行きはよいよい帰りは…」で、距離は短いのですが急な登り坂が続きます。
旅館やホテルの脇を抜けながら駅に辿り着いた時は、汗まみれになっていました。
でもそんな時に助かるのが、やはり温泉なのです。
駅前のロータリーの一角にある「家康の湯」では、無料で足湯が楽しめます。
かなり熱めのお湯は慣れるまでは痛いのですが、数分もすれば気持ちの良いことこの上ないものです。
他人なのに両側に座った人が気軽に声を掛けてくる、本日の熱海散策の最高のひとときでした。
そして、しらす丼で腹を満たして新幹線に乗り込み帰路に就いたのでした。

 
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