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[旅の日記]

飛騨高山 

 飛騨高山へやってきました。
高山は名古屋からJR高山本線に揺られて北上し、富山県にほど近い山に囲まれたところです。
前回は車での移動であったために、次の観光地に急ぐあまりに高山も主要なところしか観た記憶がありません。
今回はじっくりと、古い街並みが残る飛騨高山を巡ります。

 前日の夜に高山に入ったので、今朝改めて高山の町を巡ります。
まずは駅からほど近い「飛騨国分寺」に向かいます。
757年ごろに行基によって建立された歴史ある寺です。
本堂に向かって右手にそびえる三重塔は元は七重塔でしたが、火災で焼失しその後に建てられた塔も暴風で倒壊したため、1820年に再建されたものです。
鐘楼門は、取り壊された高山城から移築されたものです。

 その「飛騨国分寺」門前の庚申堂に小さな祠が建っています。
ここは「願掛けなでさるぼぼ」と言われ、さるぼぼの形をした石像に願いを込めて撫ぜると願が叶うというものです。
願いがかなった人がお礼に来た時に持ってきた多くのさるぼぼが、供えられています。

 さてこうして早起きしたのには訳があります。
有名な宮川の朝市を見に行きたかったからです。
宮川に向けて歩いて行きます。
川に架かる鍛冶橋の手前に有名なみたらし団子屋があるので、寄って行きます。
おばあちゃんが焼いている団子は、1串単位で注文できます。
高山のみたらし団子は何度も醤油をつけて焼くので、甘みが抑えられたさっぱり系です。
これなら何本でも食べられそうです。

 鍛冶橋の欄干には、面白いものがあります。
一方には足長像、そして反対側には手長像です。
これは出雲神話に登場する足名稚(あしなづち)と手名稚(てなづち)という神様で、愛嬌のある顔をしています。
この夫婦の像は、名工 谷口与鹿によって1848年に造られた作品です。
川には錦鯉が悠然と泳いでいるのが見え、美しい風景です。

 橋を渡ったところに、宮川朝市はありました。
今朝採ってきたばかりの野菜や木彫りの彫刻、こだわりの七味などが、店を出しています。
宮川沿いの道沿いに、鍛冶橋から弥生橋までの400mほどが朝市のエリアです。
40軒ほどの個性豊かな店が並び、ひとつひとつ見て回るだけでも楽しいものです。

 この先「日下部民藝館」「吉島家住宅」と古い街並みが続きます。
「日下部民藝館」は幕府の御用商人として栄えた商家で、日下部家は役所の御用金を用立てする掛屋や両替屋を営んでいました。
火災で焼失するものの、1879年に今の姿に建て替えられました。
外から見ると豪快に組み上げられた梁組みが目を引きます。
江戸時代の技法を活かして造られた民家建築の集大成とも言える建築物です。
土間からは高い天井をもつ和室が続き、部屋に上がると縁側からはガラス越しに中庭を臨むことができます。
現在は民芸館として公開されています。

 一方の「吉島家住宅」は、かつて造り酒屋だった屋敷です。
家の前には酒屋を示す杉玉が飾られています。
生糸、繭の売買、金融、酒造業で財を成した初代 休兵衛ですが、高山の大火で家を失い1976年に再建したものの再びの火災に会い、1907年に立て直した建物が今の姿です。
男性的な「日下部民藝館」に対し、「吉島家住宅」は繊細な造りをしています。
2階建の主屋ですが、天井は全体的に低く控えめな造りをしています。
その代わり大黒柱を中心とした格子は、横走りの梁とそれに垂直に交わる束が織りなす吹き抜けは、実に丁寧に仕上げられています。
高窓から差す筋状の光を、うまく屋内に取り入れています。

 ここからほど近いところに、「桜山八幡宮」があります。
仁徳天皇の時代に、飛騨山中に両面宿儺(りょうめんすくな)という悪党が住み着き人々を脅かしていました。
日本書紀によると難波根子武振熊命(なにわのねこたけふるくまのみこと)が軍を率いて飛騨に入り、応神天皇の霊を奉祀してここで戦勝祈願を行ったのが「桜山八幡宮」の興りとさrています。
訪れたときはちょうど秋の高山祭である「八幡祭」が終わったばかりで、そこで使われた獅子舞いが陰干しされています。

 それではその「八幡祭」で使われた屋台が展示されている「高山祭屋台会館」が、「桜山八幡宮」の入口にありますので寄って行きます。
祭りでは11台の屋台が町を曳き歩きます。
布袋台は八幡宮境内に、他の屋台は表参道に登場します。
いずれの屋台にも彫刻が施され、動く芸術品です。
八幡宮境内では布袋台によるからくり奉納が毎年披露されるということで、実際の祭りに参加してみたいところです。
しかしそのからくり人形を見ることができる場所があります。
それではその場所を訪れてみましょう。

 その場所が、「飛騨高山獅子会館 からくりミュージアム」です。
ここではからくり人形の実演が定期的に行われています。
「恵比寿文字書き」は人形が振れを使って文字を書きます。
来場者が少なかったおかげで、「寿」の文字が書かれた半紙がもらえたのです。
良いお土産になります。
「牛若丸と弁慶」では、薙刀を振りまわし襲いかかる弁慶に、乱杭を飛び渡って逃げる牛若丸の危なげな姿をからくり人形で表現しています。
一番おもしろいのは「大黒様の獅子舞」です。
7代玉屋庄兵衛の作品で、大黒様が舞台の前にゆっくりと出てきます。
打ち出の小槌を振ると、壺が割れ中から鈴をつけた花が現れます。
さらには大黒様顔にも獅子の面が付き、華麗な舞いが始まるのです。
他にも空中ブランコを舞う「角兵衛獅子」や、お茶を出して帰って行く「茶運び人形」などが次々と出てき飽きさせません。

 ここからは南に進み、「高山別院 照蓮寺」に向かいます。
親鸞の教えを受けた嘉念坊善俊が、1253年に飛騨国白川郷鳩ヶ谷に創建した寺院です。
飛騨国では浄土真宗は一大勢力となり、加賀を中心とした北陸の一向一揆に兵を派遣しました。
1488年には内ヶ島氏から焼き討ちに会いますが、1504年に和議が成立し飛騨国白川郷中野「光曜山照蓮寺」としてで復興します。
内ヶ島氏も加わり勢力を増した「照蓮寺」を警戒した飛騨高山藩初代藩主金森長近は、1588年に「照蓮寺」を高山城城下の現在地に移転させます。
その後の1692年に第6代藩主金森頼時が出羽国上山藩に転封され、この時に飛騨国は天領となりました。
金森氏からの後ろ楯を失った「照蓮寺」は、このころから一気に衰退します。
照蓮寺第17世の一乗はこの事態を打開するため、1703年には「照蓮寺」を本山に献上して「高山御坊」となったのです。

 さらに進むと、駐車場の隅に多くな洋風の建物があります。
高山市図書館「煥章館」で、起源は1900年までさかのぼります。
大野郡高山町の有志が東宮殿下御成婚記念事業として、図書館建設の重要性を唱えたのが1900年です。
こうして1906年に戦捷記念高山図書館が開館します。
2004年には高山市図書館「煥章館」として生まれ変わり、現在見る姿になっています。

 「煥章館」から「飛騨護国神社」方向に歩いたところには、味のある建物があります。
思わず写真に収めてしまいました。
味噌屋でしょうか、入口には年季の入ったのれんが掛かっています。

 それでは宮川の方へ下って行きましょう。
途中に眼にしたのは「高山昭和館」です。
いかにも昭和を思わせるような、懐かしい看板が掲げられています。
軍国主義の農業国から民主主義の工業立国に移る日本の様を感じることができます。
中に入ると駄菓子屋、散髪屋、映画館そして町の食堂などの昭和の街並みが再現されています。
3輪トラックのダイハツミゼットなど、丸みを帯びた車体はかえって新鮮味を感じたりもしたものです。

 ここからは「三町伝統的建造物群保存地区」と呼ばれ、古き街並みを特に色濃く残っているところです。
通りの左右には出格子の連なる町家が並び、軒下には用水が流れています。
この清水を利用した造り酒屋も軒を連ねていることが、店先の杉玉が物語っています。
そんななかで、飛騨牛がテイクアウトできる店があると聞き行ってみます。
そこは「飛騨牛にぎり」を皿代わりの煎餅の上に乗せて出してくれます。
歩きながら食べても良し、隣の庭園や向かいの店で食べても良し、小腹がすいた時に最適な食べ物です。
既に店頭には列ができており、10分ほど並んで手に入れることができたのでした。

 その先に進んでみます。
「高山市政博物館」で右折したところに、宮川に架かる朱色に輝く「中橋」があります。
ここからかつては高山城が存在していた小高い丘を臨むことができるのです。
今度は、橋を渡ったところにある「高山陣屋跡」を訪れてみます。

 1692年の飛騨を支配していた金森氏の出羽国上山への国替えに伴い、高山は江戸幕府の直轄領「天領」となります。
それに伴いこれまでの飛騨代官に代わり、幕府支配の出先機関として1777年に置いた役所が「高山陣屋」です。
元々は飛騨高山藩主であった金森氏の所有する下屋敷を、陣屋として利用しています。
大きな建物で、門を入ると敷地内には、蔵番長屋、奥座敷などがあり、玄関を上がると畳の大広間が拡がります。
奥の土間には薄い木板が積まれています。
これは陣屋の屋根を葺いている榑板で、ネズコやサワラの木が使われています。
蔵の軒下から天井を見上げると、榑板が使われているのが判ります。

 さてその日の食事は、この土地のものを食べに行きましょう。
「朴葉味噌焼き」は高山の名物で、ネギなどの薬味と茸、そして飛騨牛を自家製味噌に絡めたものです。
それを朴の葉に載せて焼いて味わいます。
焼けるのを待ちながら、酒を飲みながらできたところから取って食べるのは、つまみとして最高です。
高山の良い思い出になったのでした。

     
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