にっぽんの旅 東海 岐阜 下呂

[旅の日記]

下呂温泉 

 今回訪れたのは、岐阜県の下呂です。
名古屋からJR高山線に乗り、富山までのちょうど中間点に位置します。
実は3ケ月前にも下呂を目指したことがあります。
しかしその時は稀にみる大雨で飛騨川が氾濫し、鉄道網が混乱をしたため下呂まで辿り着くことができなかったのです。
今回は再度のチェレンジということになります。

 下呂駅に着いたのは正午前、ここから下呂の温泉街を目指します。
温泉までの通路は高山線の線路を潜り、飛騨川に架かる下呂大橋(通称いでゆ大橋)を渡ります。
橋の入口には、左右にガス灯が建っています。
3ケ月前が嘘のように、静かに流れる飛騨川の風景がそこにあります。
そして川辺にできた水たまりでは、人が群がっています。
ここは「噴泉池」で、湯が湧き出る自然の温泉なのです。
川を見ながら優雅なものです。

 橋を渡り切ると、そこには賑やかな温泉街が繰り広げられます。
飛騨川に直角に水を注ぎこむ川の両岸は阿多野通りで、店が並んでいます。
川を挟んだ1段低い川辺には遊歩道「せせらぎの小径」が整備されており、水のせせらぎを目の前で感じることが来ます。
ちょうど橋の中央に喜劇王「チャップリン像」があります。
映画「キッド」のワンシーンで、チャップリンがひとり佇んでいるシーンです。
何故チャップリンなのかと思いますが、下呂温泉を映画について楽しく語らいながら温泉街散策できる場所にしたいということで作られた像です。
どうやらチャップリン本人が下呂に来たとかいうことではないようですが、この像の序幕式では「下呂温泉シネマテーク」と銘打ってチャップリン映画祭が開かれたくらいで、下呂の本気度が見て取れます。

 その隣には「下呂温泉神社」があります。
ビルの1階に造られた神社で、まわりをコンクリートで囲まれた超近代的なところです。
湧き出る水も、ここでは温泉です。

 「下呂温泉神社」を横目で見ながら、坂道を上って行きます。
道が右へ90度に曲がる辺りに、白い洋館を模した建物があります。
ここは公衆浴場「白鷺の湯」です。
温泉には後程入ることにして、先を進みましょう。

 そこには「加恵瑠神社」があります。
カエルの文字の通り、拝殿にはカエル像が鎮座しています。
下呂温泉のゲロという鳴き声と「無事帰る」の語呂合わせから、カエルが下呂温泉のマスコットです。
石灯篭の明かり窓も、カエルの形にくり抜かれています。
神聖な神社なイメージのある神社ですが、ここではユニークな空間になっています。

 その隣には「下呂発 温泉博物館」があります。
温泉をテーマにした全国でも珍しい博物館です。
実際に使われていた「湯番」の木札も展示されています。
温泉が湧くしくみや効能別に温泉地とその土産物が紹介されています。
また外には歩行ができる足湯も完備しています。

 さらに町を散策してみます。
長い石段が続くのは「温泉寺」の入口です。
墓の中を通る石段を登っていきましょう。
登り切ったところには、「温泉寺」の本堂があります。

 「飛州志」や「斐太後風土記」には湯ガ峰(今の下呂)に温泉湧出が記されているように、1000年以上の歴史をもつ下呂温泉です。
ところが、1265年に突然温泉の湧出が止まってしまいます。
湯が枯れたまま年を越したある日、飛騨川の河原に舞い降りた1羽の白鷺がいることに村人が気付きます。
不思議に思い河原へ行ってみると、驚くことにそこには温泉が湧いていたのです。
白鷺は中根山中腹に飛び立ち、松の木に止ります。
そして松の木の下には、1体の薬師如来が鎮座していたのです。
「湯島薬師堂」がこの薬師如来を本尊と祀ったのが、下呂に伝わる白鷺伝説です。
その後の1671年に「温泉寺」として創建し、温泉に訪れた湯治客がこの寺の朝夕薬師如来を拝みに来ました。
境内には七福神も迎えてくれています。

 それではここで食事にします。
温泉宿が並ぶ通りに、お目当ての店はあります。
そこで注文したのは「飛騨牛まぶし丼」なのです。
甘辛く味付けをした飛騨牛がお櫃のご飯のうえに敷き詰められています。
それを茶碗にとりわけ、ひつまぶしのようして食べます。
最初はそのまま、2杯目は薬味をかけて、3杯目は出汁をかけてお茶漬けのように食べます。
肉は柔らかくてそれだけでもご飯が進みそうですが、もったいぶって指示通りに3杯に分けて食べます。
それは満足のいく食事だったのです。

 食事の後は、町の散策です。
通りには土産物屋や酒屋が並んでいます。
そんなところに高札場があります。
飛騨街道の湯の島宿であった下呂は、いまや温泉地としての面影しかありませんが、列記とした宿場町だったのです。

 「かえるの滝」は、その先にあります。
滝壺に願い事をすると叶うということで行ってみたのですが、水が流れる小さな滝でした。
「湯の島宿」の門を潜り、賑やかな通りに出ます。
下呂で最初に訪れた阿多野通りです。
先ほどは気付かなかったのですが、土産物屋の建物の浦に「さるぼぼ七福神社」があります。
これはどう見ても土産物屋が即席で造った神社らしき建物に他なりません。
朱塗りの祠には、さるぼぼが納められており、賽銭箱まであります。
もちろん神主不在の神社なのですが。

 さて最後は、下呂に来たからには外せないのは温泉でしょう。
先ほど素通りした「白鷺の湯」に向かいます。
真っ白な洋風建築の建物の外には無料で入れるビーナスの足湯があり、観光客で賑わっています。
そして銭湯の入口には、下呂温泉発祥の地であることを示す石碑が建っています。
その温泉の湯に浸かることにします。

 下呂温泉を世に広く紹介したのは、江戸時代の儒学者である林羅山による詩文集「天下三名泉」です。
その中で、有馬と草津そしてここ下呂を日本3名泉としたのでした。
それより前、室町時代の五山僧 万里集九も3名泉のひとつに下呂を紹介しています。
いずれにしても下呂温泉は、日本を代表する温泉であることだけは間違いないのです。
「白鷺の湯」の浴室に入って行くと、そこには檜風呂が広がっています。
檜の木の香りがする中でゆっくりと温泉に入れることは、このうえもない幸せです。
こうして1日の疲れを取ることができたのでした。

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