にっぽんの旅 東北 岩手 花巻

[旅の日記]

賢治が愛した花巻 

 岩手が生んだ偉人、宮沢賢治の花巻を本日は訪れてみます。
花巻駅からJR釜石線で2駅、新花巻まで移動します。
地図で見るとすぐそこのように見えた花巻・新花巻間ですが、雪景色の中をひたすら電車は走ります。
電車の本数もごくわずかで、路線案内で調べると盛岡や北上経由で新幹線に乗る経路が度々表示されます。
在来線で2駅のものを、遠回りして特急料金を払う気にはなりません。
朝の電車に乗り込み、新花巻駅を目指したのでした。

 新幹線の乗換駅であるJR新花巻駅には、賢治の作品である「セロ弾きのゴーシュ」が出迎えてくれます。
さて本日訪れたいのは、「宮沢賢治記念館」です。
地図では2km弱の距離なので、余裕で歩くことができると高を括っていました。
ところが雪道、いや凍った道路はことのほか歩きにくく、焦れば転ぶし1歩1歩を進むのがどんなに大変なものかを思い知るのでした。
線路伝いの道を進んでいくと、途中のコンビニの駐車場に賢治の童話「グスコーブドリの伝記」の出てくるブドリとネリが仲良く並んで立っています。
どうやら道に間違いはないようです。
ここで左に折れると、この先は緩やかな上り坂になります。

 ほどなく進むと、「宮沢賢治記念館」の登り口にたどり着きます。
登り口というのは、ここから記念館のある丘の上まで階段が続くのです。
幸いにも階段には屋根が付いており、足元に気を遣わずに登ることができます。
気は使いませんが、その分体力を使い切ってしまいます。

 上まで登ると、そこには駐車場の隅に小さなレストランがポツリと建っています。
童話「注文の多い料理店」の「山猫軒」を模して造られたレストランです。
その先に記念館はあります。

 「雨ニモマケズ 風ニモマケズ」と始まる文章が有名な賢治ですが、何よりも自分と1字しか違わない賢治に妙な親近感をもつのです。
館内には、賢治の遺品や資料を収集、展示しています。
宮沢賢治は1896年に父政次郎と母イチの長男として生まれました。
そして、ここ花巻は彼の故郷なのです。
1903年に花巻川口尋常小学校に入学した賢治は、鉱物採集や昆虫の標本づくりに熱中します。
「石コ賢さん」というのが、彼につけられたあだ名でした。
この時聞いた童話が、その後の彼の人生に多大な影響を与えるようになります。
1909年には、岩手県立盛岡中学校(今の盛岡第一高等学校)に入学します。
同人誌「アザリア」発行し、短歌や短編を寄稿したのもこのころからです。
1921年には家出をして東京に出て、そこで「法華文学」の創作に取組むことになりしたが、母の危篤の知らせで花巻に帰ってきます。
そして、稗貫郡立稗貫農学校(翌年には岩手県立花巻農学校に改名)の教諭の職に就くことになります。
1924年に「心象スケッチ 春と修羅」を刊行するものの、まったく売れない状況でした。
同年「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」を発行し書店に並べるも売れずに、父親から300円借りて買戻しをしています。
せっかくの安定した食い口の農学校も1926年には辞職し、トシが療養生活をしていた下根子桜の別宅で農業をして生活します。
その後は再び上京するも両側肺湿潤との診断を受けて、それ以降実家で病臥生活を過ごす日々となります。
病状が回復した翌年に、東北砕石工場の花巻出張所開設に伴って技師として働き出します。
賢治は製品の改造や営業で東奔西走しましたが病魔には勝てず、1933年に37歳の若さをこの世を去りました。
彼が有名になったのは皮肉にも没後のことで、草野心平の尽力で多数の作品が刊行されました。

 「宮沢賢治イーハトーブ館」は「宮沢賢治記念館」を出て、さらに奥に進んだところにあります。
春になれば木々の緑が美しくなるであろう「ポランの広場」を通って、イーハトーブ館に向かいます。
賢治の図書をここでは保存、公開されています。
また彼が愛した昆虫や鉱物も、詳しく紹介されています。

 「宮沢賢治記念館」の出口辺りには、「宮沢賢治童話村」もあります。
「銀河ステーション」と書かれたゲートをくぐり、広い敷地内でも中心となるのが「賢治の学校」の建物です。
中は5つの部屋で区切られ、ファンタジックホールは「賢治の椅子」が置かれた不思議な空間や、巨大な万華鏡の中に放り込まれたような宇宙の部屋、雲間からイーハトーブの大地を覗く天空の部屋、巨大で奇妙な昆虫や草木がうごめく大地の部屋、そして水のゆらめきの中にいる錯覚を起こさせる水の部屋から成ります。
また「注文の多い料理店」、「セロ弾きのゴーシュ」の童話の場面が、精巧な模型で再現されたものが印象的です。
外に出ると、ログハウスが並んでいます。
「賢治の教室」で、それぞれがテーマを持っており、童話に登場する植物、動物、星、鳥、石に関する展示が行われています。

     

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