にっぽんの旅 東北 岩手 花巻

[旅の日記]

花巻とわんこそば 

 岩手県の花巻にやって来ました。
飛行機でいわて花巻空港に降り立ち、花巻駅まで向かいます。 ところが盛岡駅ならバスがあるものの、近くの花巻駅へはタクシーしか移動手段がありません。 ひとり1台の車社会だけあって、空港の駐車場は無料で開放されています。  さて駅前には、「風の鳴る林」のモニュメントが風を感じています。
てっぺんに風車の付いた21本のステンレスのポールが輝いています。
賢治の作品から聞こえる風の音をイメージして造られ、21世紀に向けたメッセージとして21本のポールが立っています。

 駅の南側には「岩手軽便鉄道花巻駅跡」の標識があります。
コートの掛けられた標識のある場所は、かつての駅舎の跡です。
童話「シグナルとシグナレス」の舞台で、身分の違いに悩みながらも立ち向かう恋人同士が描かれています。

 そこから見える市民交流センター「なはんプラザ」の建物の入口が、「銀河ポツポ」です。
ちょうど訪れたときに、運よく音楽が鳴り出しました。
からくり時計で、毎時0分に人形の動き、宮沢賢治ゆかりの音楽を聴くことができるのです。

 さらに線路伝いに歩いてみましょう。
そこには「林風舎」という喫茶店があります。
宮沢賢治の親族が営んでいる喫茶店兼ショップで、「注文の多い料理店」をイメージして建てられた店だそうです。

 駅前の通りを南へ歩いて行くと、そこには昔ながらの和菓子屋があります。
「照井だんご店」で、ここの「経木(つけぎ)だんご」は花巻の名物にもなっています。
賢治がこの店の2階で活版印刷をしていたところなのです。
小さな3つ単位のだんごを、紙に包んでもらいます。
もちもちとした餅ですが、口の入れると中から蜜が浸み出してきて、口いっぱいに甘さが広がります。
なんとも、温かさを感じるお菓子です。

 ここからは夏の花巻をご紹介します。
花巻の1番の繁華街と言えば、「マルカンデパート」です。
残念ながら訪れた時には、1階の一部の店舗と6階の大食堂だけが営業をしていました。
この大食堂がレトロ感たっぷりなのです。
メニューがずらりと並んだショーウィンドウを横目に、食券を購入します。
番号札の立っているテーブルに着くと、エプロンと頭にはホワイトプリム姿のウエイトレスが食券を回収に来ます。
昭和を彷彿させるいでたちに、心が和みます。
実はここに美味しいソフトクリームがあるということだったのですが、出てきたものはうず高く積まれたクリームです。
なるほど、これなら人に勧めたくなるはずです。

 ここから「花巻城址」に向かいます。
その途中の市役所の向かいには、市役所分室があります。
「時鐘」の奥にひっそりと建つ分室は、切り出した石を積み上げて造った建物で、重厚感があります。

 「伊東家住宅」は花巻城内に舘小路に存在する御給人が住んでいた建物です。
1910年ごろに棟梁 高橋勘次郎が建てたものと推定されています。
内部は典型的な中級武士の住宅で、50石以上に許された玄関とその上り口である敷台があります。

 この先に「花巻城址」があります。
安倍頼時が造った城を、享禄年間に稗貫氏が鳥谷ヶ崎(稗貫郡花巻村)に移し「鳥谷ヶ崎城」と呼ばれます。
ところが豊臣秀吉の奥州仕置によって稗貫氏は没落し、1590年に浅野長政が入城しその後は浅野重吉が駐留することになります。
しかし領土を奪還しようとする和賀氏と稗貫氏が「和賀・稗貫一揆」を起こし一度は和賀・稗貫方の手に渡りましたが、翌年の再仕置軍の侵攻により一揆は鎮圧されます。
これにより稗貫郡には南部信直の代官北秀愛が城代として入り、この時に城の名称も「花巻城」と改められました。
城の改修も行われ、ここに南部支配が確立したのです。
1598年の北秀愛の死去に伴い、父の北信愛が城代となります。
南部氏が慶長出羽合戦へ出陣している隙を狙い和賀忠親が和賀郡の領地奪還を目指した岩崎一揆では二ノ丸を攻略され本丸まで迫られますが、援軍を得た北信愛が和賀忠親を撃退したのは1600年のことです。

 さて盛岡三大麺で有名な「わんこそば」ですが、その起源は花巻とされています。
慶長時代に当時の南部家27代目当主 南部利直が江戸に向かう際に「花巻城」に立ち寄ります。
その時市民と同じ丼で殿様に食事を出すのはは失礼ということから、山海の幸と1口ののそばを漆器の椀に恐る恐る出したところ、利直は気に入り何度もお代わりをしました。
明治時代に入り花巻市の蕎麦屋 大畠家が市民にもわんこそばを振る舞うようになり、「お殿様の召上がったわんこそば」は市民の人気になったのです。

 そして花巻の夜は更けていきます。
翌朝は起きてすぐの散歩です。
藁葺きの建物は江戸時代に建設された「同心家屋」です。
ここは浅野長政が城下の治安を守るための一団を住まわせた向小路御同心町です。
旧奥州街道沿いにあったものが、ここに移築され保存されています。

 決して華やかさのない花巻の町ですが、偉人 宮沢賢治の故郷としての花巻で彼の足跡をたどった1日でした。

 
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