にっぽんの旅 東北 福島 飯坂温泉

[旅の日記]

飯坂温泉 

 今、福島に来ています。
これから向かうのは、「飯坂温泉」です。
JR福島駅から福島交通飯坂線に乗り換え、約20分のところです。
単線を2両編成で走る車両は、どことなくのんびりしています。
今回は温泉地に向かうとあって、気分は上々です。

 電車に揺られて着いたのは飯坂温泉駅で、駅に降り立つと摺上川の両岸にへばりつくように温泉街が広がっています。
川に架かる十綱橋を臨む風景は、ガイドブックでよく目にする姿そのものです。
飯坂温泉は、鳴子温泉、秋保温泉とともに奥州三名湯に数えられるところで、2世紀頃から存在する歴史ある温泉です。
ヤマトタケル伝説にも登場する古湯なのです。

 飯坂温泉駅からほどなく歩いたところにあるのは、「波来湯」です。
平屋建ての建物の屋根に小さな2階部屋がくっついたような形をした建物ですが、浴場は地下1階にあります。
源泉掛け流しの風呂で、飯坂温泉の代表的な共同浴場です。
思わず入りたくなりますが、今日の宿泊するホテルにも温泉がありますので、ここは我慢しそちらを利用することにします。

 ふんだんに湯が湧き出ていることを物語るように、外には湯が流れています。
そしてその先の坂を下りたところでは足湯も完備されており、自由に入ることができます。

 「波来湯」を眺めながら通りを進んでいくと、酒屋があります。
そしてその壁には、酒の銘柄を模った立派な看板が掛かっており趣があります。

 ここからは、1筋中の通りに入っていきます。
そこにあるのは、次なる共同浴場の「鯖湖湯」です。
日本最古の木造建築共同浴場で、建て直しに際しても当時の姿を再現しています。
西行法師がこの湯を訪れた際に詠んだ歌から付いた名前で、歴史を感じます。

 「鯖湖湯」の横には「鯖湖神社」があり、「お湯かけ薬師如来」が祀られています。
そしてそこには「飯坂温泉発祥の地」の碑が建っており、ここがまさに「飯坂温泉」の源であることが判ります。

 それでは、その先の「旧堀切邸」を訪れてみましょう。
若狭国の梅山太郎左衛門菅原治善が上飯坂村に移ってきたのは、1578年のことです。
名を若狭と改め、この地で農業を始めます。
村を流れる川がたびたび氾濫するため堀を切って川の流れを変え、埋め立てた場所は田畑や宅地にしてきました。
そのことからこの地名を「堀切」と呼び、自身も「堀切」と名乗るようになります。
この地一番の豪農、豪商へと、確固たる地位を築いていきます。

 14代当主の堀切良平は、上飯坂村をはじめとした5村の任命戸長となります。
1888年に飯坂町湯町から出火した大火の際は、私財を投じて焼け跡の整備に奔走しました。
その後戸長制度は廃止となり、市町制の導入によって上飯坂村は飯坂町となります。
良平は町会議員から県会議員と進み、飯坂町の発展に大きく貢献しました。
良平の長男である堀切善兵衛 は、慶応義塾大を卒業後、ハーバード大、ケンブリッジ大に留学し、帰国後は30歳の若さで衆議院議員に当選します。
犬養内閣の大蔵政務次官、駐イタリア大使の職を勤めました。
二男の堀切善次郎も東京帝国大法学科を卒業後、内務省へ入省します。
関東大震災の時は復興局長として帝都復興に尽力し、その後は東京市長に就任しました。
内閣書記官長などの要職に就き、戦後は幣原内閣の基で内務大臣に就任し、戦後処理や女性参政権のための選挙法改正などに尽力しました。
そんな輝かしい堀切家が使っていた住宅が、残されています。
1,230坪の広大な土地ですが、最盛期にはその2倍はあったとされています。
敷地内には当時のままの表門、主屋、十間蔵、井戸小屋が残されています。

 堀切家の稀に見る才能とその活躍に心を打たれた後は、再び街を練り歩きます。
「八幡神社」のそばには、その名の通りの「八幡温泉」があります。
ここも公衆浴場です。

 そうこうしているうちに、大分と陽が傾いてきました。
一度ホテルに寄って、荷物を置いてくることにします。
本日のホテルは、摺上川を挟んだ反対側になります。
川に架かる橋はそう多くありませんので、川を跨いだ行き来は簡単にはできません。
ホテルでチェックインをして必要なものだけに身を軽くし、再びこちら岸にやって来たのです。

 なぜかというと、「飯坂温泉」でどうしても食したいものがあったからです。
それは「ふくしま餃子」で、その発祥の店がこの近くにあるのです。
「ふくしま餃子」といえば、円盤形に焼きあがった形に特徴があります。
人気の店と聞いていただけあって、案の定店の前には列ができていました。
店の入口には足湯があり、湯気を揚げて湯が注がれています。
夜になると冷え込むこの時期に、湯気の温かさが順番待ちの寒さを和らげてくれます。
30分以上待ったでしょうか、やっと順番が回ってきました。
中に入いると迷わず頼むのが、「ふくしま餃子」です。
それにビールと餃子が焼けるまでのつまみを少々。
丸く並べる餃子ですが、その形を作るにはそれなりの餃子の量が必要です。
「残ったら持って帰ってもいいからね」と言いながら、餃子がぎっしり並んだ皿が目の前に運ばれてきます。
内に入れると皮がもちもちとしており、思った以上に食べごたえがあります。
とはいえ結局はペロッと平らげてしまったのでした。

 さてこれからあとは、ホテルに帰って風呂に浸かるだけ。
ゆっくりと温泉を味わい、昼間の散策の疲れを回復したのでした。

   
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