にっぽんの旅 信越 新潟 小木

[旅の日記]

小木・宿根木 

 本日は佐渡島の港町「小木港」に、来ています。
佐和田からバスで約1時間。時折車窓から覗く日本海を眺めながら、バスに揺られてやってきました。

 ここからは、レンタサイクルに乗り換えます。
観光センターに荷物を預け、予約していた自転車の操作説明を受けます。
そして地図に基づき、目的地の「宿根木」までの行程を教えてもらいます。
説明と実際に走行してみて判ったのですが、「宿根木」までの道は意外と坂が多いのです。
日頃運動はしておらず、ましてや体力の衰えてきた者にとって、この坂はかなりきついのです。
唯一の救いは、電動自転車であったことでしょう。
初めて乗る電動自転車ですが、普通のものよりかなり軽く走ることができます。
ただ、それにも増して体力の衰えの方が上回っていたのは確かですが。

 「宿根木」の入口は、「佐渡国小木民族博物館」から始まります。
自転車で漕ぎ進んでいると、突然大きな木造の建物が現れます。
建物の中には、北前船で使った千石船「白山丸」が、復元され保管されています。
そのほか、この集落で使われた昔の生活道具の展示されています。
かつては、相川で採られた金銀の搬出、さらには北前船の寄港地として栄えていましたが、宿根木での輸送量の限界から小木や赤泊に次第にその役割が移っていき、港町としての宿根木は衰退していきます。
しかし船大工集団が住む地区として、その地位を築いていきます。

 坂を下りたところに「宿根木」の町はあります。
かつての船大工集団の集落です。
目の前には海が開け、ここが「宿根木港」です。
港と言っても、船が接岸する場所がある訳でもなく、むき出しの岩場です。
そしてその所々に船を繋ぎ止めておくための柱「舟つなぎ石」が建っているのです。
その質素さが、逆に自然が残ったのどかな船着き場に見えます。

 「宿根木」の町は「世捨小路」に見られるような、小さな路地があちらこちらに走っています。
人が行き交うのが精いっぱいの広さの路地で、個人の敷地との境目もありません。
目の前に人の家の窓があり、部屋の中を覗かないように目のやり場に困ります。
「世捨小路」の名は、集落内で葬式が行われると棺がここを通るため「この世のお別れ」ということから来ていると言われています。
この通りでは自転車を押しての移動が困難なために、宿根木の中でも唯一車の通ることができる通りを進んでいきます。

 「伊三郎家」は、工芸品のような軒下飾りを持つ家です。
伊三郎家の姓である「石塚」の内の一文字を、透かし彫りにしたものです。
舟大工のもつ緻密な彫りの技術を、うかがい知ることができます。

 その先には、舟の舳先のように尖った形をもつ家が、道路と小川に挟まれて建っています。
実は上から見ると三角形をした「舟形家屋」、通称の「三角家」です。
海から吹き荒れる暴風雨に逃れるための、谷あいに築いた「宿根木」での狭い土地を有効に利用するための工夫で、少なくとも1846年以前に建てられたものです。
現在も立派に住居として利用されています。

 「三角家」の横の小川では、海に向かって澄んだ水が注がれています。
町を南北に貫く「称光寺川」です。
陽の光が反射し、静かな町に暖かい秋の陽射しが広がっています。
だって自転車でやって来なければいけないくらい、バスの本数が少ないのどかな町なのですから。

 すぐ先の開けたところに、「宿根木公会堂」はあります。
淡いピンクの公会堂は、黒っぽい木の家しかないこの町では、ひときわモダンに見えます。
芝居小屋形式の建物は現在2代目で、今でも町の人々に利用されています。

 「宿根木公会堂」から見て「称光寺川」の反対側には、「共同井戸」があります。
集落が高台へと広がった際に造られたもので、戦時中から使われている水汲みポンプが今も現役で稼働しているのには驚きです。
井戸から高台に続く階段の敷石は、思い水を抱えて昇り降りしたのか、丸く削れて真ん中が沈んでいます。

 「宿根木公会堂」の奥の「称光寺」に向かいましょう。
水難除けの守護神として、古くから信仰を集めているお寺です。
そして、集落すべての家がこの寺の檀家となっています。
都会では考えられないような状況ですね。

 「清九郎家」は、先ほどの「三角家」の脇を入って行ったところにあります。
「清九郎家」は有田久四郎という船主の家で、中に入るとするに囲炉裏のある大きな部屋が目に入ります。
2階まで通しの部屋の天井は高く、部屋自体が黒光りしています。
高いところに窓があるのは囲炉裏の煙を逃がすためで、昔は窓の大きさで税金が課せられたそうです。
太い梁や杉の一枚板で出来た戸板など、当時の羽振りのよさをうかがわせる立派な造りです。

 「清九郎家」の向かいには、「旧郵便局舎」があります。
素朴な黒くくすんだ町家ばかりのこの町のなかで、異色の緑色の壁に疑いを持ちつつも、確かに〒マークの標識が付けられていることで、確かに郵便局であることに納得します。
ガイドマップにも記載がない場所で、見つけた時には何やら得をした気分になりました。

 さて、再び自転車で小木港に戻ります。
小木港辺りでは、行きに通った海岸線側とは違った山側の小木の集落を進んでみます。
通常の店に混じって、宿や蕎麦屋がならびます。
といっても小さな町、自転車ではあっという間に商店の並ぶ町の中心地を通り抜けてしまいます。

 小木港は、直江津からのフェリーの発着とともに、「たらい舟」でも有名です。
本来は、サザエやアワビ、ワカメなどを獲るために使用していた「たらいの舟」ですが、今では観光客相手に10分余りの航海を楽しむようになっています。
女船頭さんが乗り、手漕ぎ走行で小木湾を1周してくれます。
その運行は時刻表にも載っており、掲載されているうちの最小の乗り物です。

 借りていた自転車を返して、フェリー埠頭にある「小木屋」を訪れます。
名前からすると小木さんの古い屋敷跡が公開されているものかと思ってしまいますが、フェリーのりば兼土産物屋が入っている建物です。
ここに来たのは、佐渡のB級グルメである「ブリカツ丼」を食べるためです。
ご飯の上には、佐渡で捕れた天然のブリをフライにしたものが敷き詰められています。
ブリばかり食べ続けても飽きるのではないのかと、名物と言えども本当に旨いのかと半信半疑で注文したのでした。
ほんのり甘いたれがかかり脂ののったぶりが、佐渡産コシヒカリの白いご飯に合うのです。
あっという間に、丼1杯をぺろりと平らげてしまいました。

 そして、再びバスに揺られて、帰って行ったのでした。

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