にっぽんの旅 四国 愛媛 道後

[旅の日記]

道後温泉 

 四国の温泉といえば、まず最初に思い浮かぶのがここ「道後温泉」です。
JR松山駅に降り立ち、そこから伊予鉄道の路面電車に乗り込みます。
どこで降りても均一料金のところを、終点の「道後温泉」まで乗るのはお得感があります。
ただしお世辞にも早い電車とは言えません。
4kmの距離を、30分もかけてゆっくりと走ります。
「松山城」を眺めながら、電車は進んでいきます。

 どことなく懐かしさを感じる道後温泉駅は、1911年建築の明治洋風建築の旧駅舎を復元したものです。
通りを挟んだところには「坊ちゃんからくり時計」があり、1時間おきに小説「坊っちゃん」のキャラクターが登場します。
その脇には足湯があり、ここで足を休める人が集まっています。
そしてこの場所から北に延びる商店街「道後ハイカラ通り」では、「道後」と書かれた提灯が出迎えてくれます。
今晩の酒をここで調達することにしましょう。
土産物屋や食事もこの商店街で済ますことができます。

 商店街入口から東側に目を向けると、長い石段の上にポツリと社が見えます。
ここは「伊佐爾波神社」です。
全国に3例しかない八幡造で、神功皇后・仲哀天皇が訪問した際の行宮跡に建てられています。
「伊佐爾波神社」の手前、道後温泉側にはもう少し手軽に行ける神社もあります。
「湯神社」で、小高い丘の上にその社はあります。
「伊佐爾波神社」の西側に位置することから、「西宮」とも呼ばれています。
景行天皇が訪れたときに道後温泉の守護神として創建されたもので、鷺が痛めた足を温泉に浸して傷を癒していたことから温泉が発見されたといわれる道後温泉発祥の地です。

 それでは南から上ってきた「湯神社」を、今度は北側の坂を下っていきましょう。
坂の下は道後温泉駅からL字に曲がった商店街の終点で、そこに大きな和風の建物があります。
これこそが「道後温泉本館」なのです。
「坊っちゃん湯」の愛称をもつ「道後温泉」は、共同浴場番付において東の湯田中温泉大湯と並んで西の横綱に番付けされているところです。
1894年の建築で、1階に脱衣場、2階に大広間、3階には客室をもつ3階建ての和風建築です。
浴室は「神の湯」「霊の湯(たまのゆ)」が、それぞれ1階と2階にあります。
「神の湯」の入浴だけなら400円余りで利用できますので、一般的な銭湯と較べても遜色ありません。
宮崎駿監督の映画「千と千尋の神隠し」に登場する「油屋」のモデルのひとつにもなったとされています。

 何もしていないんじゃなかと言われそうですが、本日は早々にホテルに入り温泉を楽しみます。
日本の知恵のかたまりである浴衣に着替えて、ゆっくりとくつろぎます。
道後では浴衣で街を歩いていても恥ずかしくないのです。
温泉のあとのビールは、先ほど商店街で見つけてきた「道後ビール」です。
そして、鯛の刺身、鯛の煮つけ、鯛めしと、鯛づくしの食事を楽しみます。
淡白な鯛の甘みが、口いっぱいに広がります。
食事の後は部屋に戻って、改めて飲み直しです。
ここでも先ほど仕入れた酒が役に立ちます。
店で「今日中に飲んでください」と渡された生酒「讃穀讃水」は、まろやかで上品な味わいです。
あっという間に生酒はなくなり、次なる濁り酒へと夜は更けていったのでした。

 翌日は朝から、真面目に松山の文化を学ぶことにします。
訪れたのは道後公園にある「子規記念博物館」です。
1867年に松山市花園町に生まれ、自由民権運動の影響を受けて政治家志望で上京したものの、東京帝国大学で文学に眼覚めます。
そして俳句の魅力を知り、俳人として名をはせた正岡子規の博物館がここです。
「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」という、誰もが知る5/7/5の口調も子規の作品です。
結核に苦しみ34歳で死去しますが、その直前には凄絶な闘病生活を随筆「病牀六尺」に残しています。
また無類のベースボール好きで、松山に野球を持ち込んだひとりにも数えられます。

 「道後公園」内には、いくつかの見ておくべきものがあります。
そのひとつは、道後温泉で1000年余り使用された「湯釜」が供養されています。
「湯釜」とは温泉の湧出口のことで、1.7mほどの直径の巨大な円筒形をしています。
日本最古の「湯釜」として、「湯釜藥師」の名で親しまれています。

 その先には「湯築城資料館」があります。
1335年ごろの河野通盛が伊予国の守護であった時代に築城されたものです。
近世の城で見られるような石垣や天守はない、平山城でした。
ところが16世紀前半には周囲に外壁を巡らし二重の堀をもつ城になったことが、発掘調査から判っています。
外堀の内側には武士を住ませ、その中でも西には家臣を、そして東側には上級武士の住む広い敷地が広がっています。
「湯築城資料館」の隣には武家屋敷も復元され、今後の更なる調査が期待されるところです。

 さて道後、そして松山といえば有名なのが、「じゃこ天」です。
旨い「じゃこ天」を求めて、町を巡ります。
ホタルジャコなどの魚を骨ごとすりつぶし、平たく成形したものです。
店頭で1枚づつ売っている店を、見付けました。
注文するとオーブントースターに入れて焼いてくれること5分余り。
ホカホカで香ばしい魚の練り物が出てきます。
見た目は灰色の塊ですが、魚のしっかりした味が自慢の食べ物です。
臭みはなく、歩きながら食べるのには最適の「じゃこ天」でした。

 ここからは、JRの松山駅に戻ります。
今回は路面電車に揺られながら、のんびりとした道後温泉の旅だったのでした。

     
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