にっぽんの旅 九州 鹿児島 知覧

[旅の日記]

知覧 悲しい特攻隊の思い出 

 本日は、薩摩半島の南側の山間の町、知覧を訪れます。
鹿児島中央駅からは、鹿児島交通のバスに乗り込みます。
市街地からやがて山間部に入り、停留所の間隔も広くなってきます。
1時間以上走った時に、特攻観音入口バス停に到着します。

 ここにあるのは「知覧特攻平和会館」です。
太平洋戦争時、最初は飛行訓練のための施設だった知覧ですが、沖縄戦の戦況の悪化に伴い九州の訓練施設が相次いで特攻隊の出発地点に様変わりして行きます。
ここ知覧はその中でも、飛び抜けて多くの特攻隊を送り出した場所です。
会館内は撮影禁止で画像はお見せできませんが、真っ黒に焼け焦げた零戦が展示されています。
痛々しくて、見ていられません。
特攻を行うことは前日に兵士に告げられ、その時点で日の丸に寄せ書きを行います。
そんな中、家族や嫁に手紙をしたためる者も多く、悲痛な心の内を描いた手紙が展示されています。
死んで行く我が身をよそに、家族や嫁に気を掛ける内容の手紙を読んでいると、涙が溢れてきます。

 建物の外には、三角兵舎が展示されています。
これは上空を旋回する敵の目を欺くために穴を掘って兵舎を地下に埋め、地上に出た屋根の部分は木々や草を乗せて隠していたのです。
中は寝床だけが並んでいる、質素なものです。
知覧に来た兵士がここで寝起きをしていたと思うと、心が引き裂けそうです。

 「知覧特攻平和会館」を正面に向かって見て、右側には「特攻平和観音」があります。
戦争で散って行った兵士の霊を、慰めています。
また左側には「ミュージアム知覧」があります。
ここは知覧の歴史を紹介する博物館ですが、先ほどの「知覧特攻平和会館」での印象があまりにも強烈であったために、展示物の説明を棒読みするだけで何も頭には入ってきませんでした。

 さてここからは、2kmほど離れた武家屋敷群に向かいます。
歩いて行っても、次のバスを待っている間に着けそうなので、ゆっくり歩くことにします。
道路には、どこまでも燈籠が並びます。
灯籠をよく見ると、兵士の像が彫られています。

 さびしい気持ちになっていたのですが、知覧の中心街まで来ると状況は一転します。
市が開かれていて、多くの出店が出ています。
食べ物屋もちろん、植木や古着までもが売られています。
老若男女問わずに皆が参加し賑わっています。

 そんな中に「富屋旅館」と「富屋食堂」があります。
1929年に開業した「富屋食堂」は、鳥濱トメが切り盛りしていました。
戦争が始まると「富屋食堂」は、帝国陸軍の指定食堂となり、多くの兵士が通うことになります。
トメは若い兵士たちを、わが子のように親身になってかわいがります。
やがて散って行くことを知りながらも明るく振舞い、兵士も「おかあさん」と呼ぶようになって行きました。

 終戦後は遺族や生き残って再び知覧を訪れる人々が困らないように、私財をなげうって旅館を開きます。
これが「富屋旅館」です。
また近くには「トメさん観音」があり、トメが拝み続けてきた観音像が祀られています。

 ここから先は武家屋敷が続き、7軒の「知覧武家屋敷庭園」を見て回ることができます。
そのうちの6軒は、枯山水の庭園です。
武家屋敷の入り口のところにある売店で、共通入場券を購入します。
建物には入場券を見えるように手に持って入るのですが、入り口に人が居るでもなく気にせず入って行けます。
西郷恵一郎邸、平山克己邸、平山亮一邸、佐多美舟邸、高木家住宅、佐多忠直邸と枯山水の木と石で表現された庭を見て回ります。
途中に藁葺屋根の民家があり、そこでは鹿児島名産の「ぼんたん」が売られています。
人が居るでもなく、代金を置いて品物を持っていく無人の販売所です。
最後に訪れた森重堅邸だけは、池に水を溜めた庭園です。
池の周りを囲む石に付いた苔が、きれいな庭です。

 「知覧武家屋敷庭園」を見終わり、バス通りに出ます。
麓川の先には、小さな石橋が見えます。
「矢櫃橋」で、平安末期に知覧忠信が築いた「知覧城跡」に続きます。
室町時代に入ると、島津忠宗の三男にあたる佐多忠光が知覧の領主となります。
その後、島津家の後継者争いで勃発した「伊集院頼久の乱」により、一時は知覧城が伊集院一族の手に落ちることがあったものの、再び佐多氏が明治維新までこの地を治めることになります。
佐多氏は島津藩政に忠実に貢献し、1711年には第16代当主佐多久逵が島津宗家より知覧を私領とすることと島津姓の使用が許可されたのです。

 ここからは、バスでJR喜入駅まで揺られていきます。
知覧茶で有名な知覧だけあって、車窓には茶畑が広がっています。
山間の道を抜けバスが着いたのは、JR喜入駅です。
駅前に店もないような小さな駅ですが、特急も停まる偉大な駅なのです。
ここで、帰りの電車を待つのでした。

   
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