にっぽんの旅 近畿 京都 鞍馬

[旅の日記]

貴船から鞍馬 

 今回は、洛北の貴船、鞍馬を訪れてみます。
「出町柳」から叡山電鉄鞍馬線に乗り、「貴船口」を目指します。
かつて京都電燈および鞍馬電気鉄道で、出町柳から鞍馬までの鞍馬線と、出町柳から八瀬比叡山口まで続く叡山本線から成ります。
1両もしくは2両の電車ながら20分間隔で運行されており、おまけに複線とあってスムーズに進みます。
ところが「二軒茶屋」を過ぎた辺りから、状況は一変します。
単線になり、車体が上下左右に大きく揺れ出します。
車体すれすれまで木々が茂り、その中を電車がはうように走ります。
まさに田舎の電車です。
遊園地の乗り物に乗ったようなワクワク感を楽しんでいると、やがて目的地の「貴船口」に到着します。

 ここから「貴船神社」までは2km。
程良くバスが来そうでしたが、ここは貴船川の清流を眺めながら歩くのも良さそうです。
幸い先ほどまで降っていた小雨も上がり、川沿いを散策することにします。
鞍馬川の支流である貴船川は、自然の中に穏やかな流れを作っており、暑い夏に涼しさを与えてくれます。
所々に段差が付けられており、白波立てて水が滑り落ちる様はこれまた美しい眺めです。

 やがて川に屋根が設けられている場所に差し掛かります。
天井には提灯が灯され、床が敷かれています。
夏の風物詩である川床で、20件ほどがひしめいています。
自然のクーラーに当たりながら、食事をすることができるのです。
ところがそれなりに結構良い値がしますので、今回はパスです。
その代り、他では食べられない変わったものを食べに、あらかじめ目をつけていた店に入ります。

 昼食に選んだのは「鮎茶漬け」です。
鮎が2匹まるまる入っています。
そして頭からかぶりつくことができます。
鮎に浸みた味が最後までお茶に負けることなく、美味しく食べられた一品でした。

 さて、店の横にある「貴船神社」の鳥居を潜り、石段両側に並ぶ灯篭の間を進んでいきます。
いよいよ本宮です。
水の神様であることから「きふね」と呼ばれ、全国に約450社ある貴船神社の総本社です。
神武天皇の母である玉依姫命が、黄色い船に乗って淀川から鴨川、貴船川を遡ってこの地に上陸し、水神を祭ったと伝えています。
絵馬発祥の地とも言われ、境内には馬の像が飾られています。

 それでは、さらに先の奥宮を訪れてみます。
川床を横目に足を進めましょう。
途中からは、車道とは独立した参道が整えられています。
砂利を踏みしめながら、奥へと進みます。
赤い扉を潜ると、ひっそりした境内の先に「貴船神社」奥宮があります。
本宮のような賑やかさはなく、小さな本殿がちょこんと建っています。
実はもともとこの地に本宮もあったのですが、度重なる水害を避け、現在の地に移ったのです。

 心も洗われ、先ほど通ってきた本宮の参道入り口まで戻ります。
川床の脇から山に向かって、赤い橋が架かっています。
「鞍馬寺 西門」で、ここから急な登りが15分ほど続きます。
折しも雨が強く降ってきました。
足元を気にしながら、ひたすら登り続けます。
周りには天に向かってまっすぐに伸びる杉の林が広がります。

 どの観光ガイドを見ても鞍馬から貴船へ向かうものばかりで、今回のような逆方向のものはありません。
この心臓破りの上り坂で、その訳が良く判りました。
やはりガイドには従うべきです。

 体力も限界に近付いた時に、「奥の院 魔王堂」が現れます。
源義経(牛若丸)が修行に励んだ場所です。
一方では金星から来たとされている護法魔王尊が祀られているとも言われ、現実と非現実が混在しています。
いずれにしても「鞍馬寺」の原点であることには、間違いありません。

 その先を歩いて行くと、「木の根道」と呼ばれるところがあります。
鞍馬は土地が非常に固く木々の根が地中に潜ることができないために、地上に張って道を塞ぐような状態になるのです。
足場は根ばかりで歩きにくいのですが、さすがの登り坂も終わって苦しい歩行ではありません。

 その先には「義経堂」があります。
奥州平泉の衣川の戦いで自害した義経の魂が、少年時代を過ごした鞍馬に戻ってきたと信じられている場所です。
そしてその横には「僧正ガ谷不動堂」があります。
伝教大師が刻んだ不動明王が安置されている場所で、「義経堂」から見下ろした場所に建っています。

 さらに山道は続きます。
ここからは石を敷き詰めた階段で道は整備されており、下りですので苦労することなく進みます。
しかし既に足は笑っており、重い通りに足が出ません。
「地蔵尊」を越えて、牛若丸が利用したとされる「牛若丸 息つきの水」を見ていきます。

 そしてたどり着いたのが、「御山の門」です。
「鞍馬寺」から山に登るには、ここを越えていくのです。
門の先には「鞍馬寺 金堂」が広がっています。
その両脇には狛犬ならぬ「阿吽の虎」が鎮座しています。
ここでは虎が寺を守っているのです。

 「鞍馬寺」は、鑑真の高弟である鑑禎が770年に草庵を興したのが始まりとされています。
牛若丸(源義経)が修行をした地としても有名で、能の「鞍馬天狗」でも知られるところです。

 「鞍馬寺 金堂」からはケーブルカーで麓まで降りることができるのですが、途中の「由岐神社」に寄るためにあえて歩いて行きます。
もとは宮中に祀られていたのですが、都での大地震や天慶の乱により、朱雀天皇の勅により940年にここ鞍馬の地に遷宮されました。
「鞍馬の火祭」で有名で、里人がかがり火を持って神霊を迎えたことから、今に受け継がれています。
神社の前には立派な山門が設けられており、歴史を感じることができます。

 さて麓まで降りたところに「鞍馬寺 仁王門」があります。
寿永年間に建立された貴重なものです。
門を潜り浄域から俗界へ戻ることができました。

 最後に叡山電鉄の「鞍馬駅」に向かいます。
寺院風の木造建築である「鞍馬駅」の駅舎は鞍馬の街並みに合致しており、土産物屋裏手にある駅を通り過ぎてしまった程です。
駅の横には迫力のある「鞍馬天狗」の大きな像があります。
この電車に揺られて、「出町柳」まで帰って行ったのでした。

     


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