にっぽんの旅 近畿 京都 伊根

[旅の日記]

伊根の舟屋 

 夏も峠を越した今日、訪れるのは京都の日本海側の町、伊根です。
福知山経由で宮津駅まで、1両編成の単線の京都タンゴ鉄道でやってきました。
北近畿タンゴ鉄道から経営を引き継いだ、高速バスで急成長した会社です。
でも列車の車両は、旧北近畿タンゴ鉄道で使っていたどことなく懐かしい味のあるものばかりです。
単線の路線は、数駅ごとにすれ違いのための停車があり、のんびりと列車は進みます。
山間を1両編成の列車がガタゴトと走る、約1時間の旅です。

 宮津駅からは、丹後半島を回るぐるたんバスに乗換えます。
ぐるたんとは、ぐるっと丹後周遊の略称です。
バスと電車が乗り降り自由なフリー切符を買って、早速バスに乗り込みます。
バスは天橋立駅、対岸の傘松公園を回って伊根、網野までの日本海沿いの観光要所を回る、土日だけ運行される路線バスです。
気が向けば降りることができ、バスガイドがいるわけでもなく気を使わないバスです。
1時間ほどで、最初の目的地である伊根に着きます。

 まずは、バス通り沿いに気になる建物があったので、いま来た道を少し引き返します。
「向井酒造」は、伊根の地酒「京の春」のある造り酒屋です。
女性の杜氏がいることでも有名で、テレビで紹介されたこともあります。

 この辺りは、舟屋で有名な場所です。
舟屋とは、海を行き来する船に家から直接乗り込むことができる、船着き場を備えたこの地方の家のことです。
海沿いに立っている建っている家々は、海から眺めると舟屋がずらりと連なって見えます。
先ほどバスから目にしたのは、1階にすっぽり船が入っており、その先の海を見渡すことができる舟屋です。
海に向かって斜めに張られた1階の床は、波を受けて床と水の境が絶え間なく動いています。
他人の家ながら、軒先でしばらく眺めてしまいました。

 さて伊根のバス停に戻る途中にある食堂で、お昼にします。
ここに来れば食べようと決めていた「へしこ茶漬け」を注文します。
へしことは、塩づけにした鯖をさらに糠に漬けた保存食で、丹後地方の郷土料理です。
へしこを薄く切り、青葉、海苔などにお茶をかけて出来上がりです。
へしこ自体に結構塩味がついており、お茶と一緒でも十分味が出ています。
対岸の伊根の舟屋を眺めながらの食事です。

 食堂の真ん前の石段を登ったところに、「八坂神社」があります。
高台から伊根の街を見下ろしたあとは、腹も満たしたこともあっていつものごとく強硬に町を散策します。
バス停の近くには、舟屋を一望できる場所があります。
舟屋は海に向かって、縦向きにびっしり並んでいます。
窓から糸を垂らすと釣りができそうな、海の真横といった具合です。
海に引付いて家が建っていうことと、船着き場を備えた家であること以外は、洗濯物が干され家からは声が聞こえて来る生活感のある家々です。
こうして観光で訪れる分は海の幸に恵まれて良い面ばかりなのですが、その反面一旦海が荒れると苦労も多いだろうにと、要らぬ心配をしてしまいます。

 伊根湾をぐるりと歩いて回ってみます。
舟屋で有名な伊根ですが、道路の山側にも家はありその間を抜ける道を歩いて行きます。
魚の生臭いにおいをかぎながら、伊根漁港を過ぎて行きます。
水産会館では、今使っている建物の横に木造の大きな建物があります。
魚の荷降ろし場なのか、船の道具を格納する場所なのか、あるいは地域の集会所なのかは扉が閉まっていて確認することはできませんが、木造の大きな建物があります。
辿り着いた伊根郵便局の辺りが、伊根湾の最後の集落です。
伊根のバス停周辺のような観光用に整備されていることもなく、ひっそりとした港町です。

 次のバスに間に合うように再び伊根のバス停まで戻りますが、その途中の山腹に道の駅があります。
「舟屋の里公園」にもなっており、伊根湾全体を見下ろすことができます。
その分、かなりきつい階段を登らなければいけないのですが。

 伊根の町を一通り回り終え、フリー切符を使ってバスで丹後半島を巡ります。
「浦島神社」は825年創祀の神社で、伝説「浦島太郎」で日本書紀にも登場する神社です。
その先で視界が広がり、眼下に海が見えたところが、本庄の町です。
澄んだ海は、底が透けて見えます。
かつては陸の孤島として存在したこの町でしたが、今はこうして丹後半島の一角を担っています。

 バスは一路、丹後半島の最北端の「経ヶ岬灯台」に向かいます。
バスには3組の客が乗っていたのですが、いずれも気に入ったところがあれば降車する気満々の気ままな客ばかり。
そのうちの1組が、灯台を見たいらしく突然降りると言い出し、運転手に道を聞きていました。
バスはその1組を降ろし、さらに海岸線を走ります。

 「丹後松島」は、風景が日本三景の松島に似ていることからこう呼ばれるようになりました。
半島に飛び出た「犬ヶ岬」の丸みを帯びた山の稜線も、綺麗な眺めです。
バスは「屏風岩」で、写真休憩を取ります。
高さ13m安山岩でできた薄い岩の島が一直線に並んでおり、それらの岩々を遠目で見るとまるで屏風を開いたかのようです。
「丹後松島」と並び、丹後半島の絶景ポイントのひとつです。

 「てんきてんき村」でバスを降り、「立岩」に向かいます。
「てんきてんき村」とは道の駅のことで、丹波の土産物が並んでいます。
敷地内に「はにわ公園」やオートキャンプ場もあり、目指す「立岩」はその先にあります。
海岸を目指して歩いて行くと、そこには巨大な岩がそそり立っています。
オーストラリアでいればエアーズロックのような岩は、砂浜でかろうじて陸でつながっている島で、海の波に呑まれて立っています。
柱状玄武岩の島は、縦に延びた玄武岩の柱で島全体ができています。
用明天皇のお后で聖徳太子の生母の間人皇后の伝承が、残っています。
用明天皇の第3皇子である麿子親王が鰾古・軽足・土車という3匹の鬼を退治した時、鰾古・軽足はその場で退治したのですが、土車だけは見せしめのためにこの大岩に封じ込めました。
いまでも風が強く波が高い日には、鬼の号泣する声が聞こえると言われています。

 1時間おきに走るぐるたんバスの次の便に乗り、今度こそは終点の網野駅に向かいます。
夏は海水浴で賑わうこの地方には何回か泳ぎに来たことがありますが、盆も過ぎた今の時期はさすがに静けさを取り戻しています。
バスは鳴き砂の「琴引浜」を過ぎ、京都タンゴ鉄道の網野駅に辿り着いたのでした。
本来はここから再び宮津を経由して福知山にゆっくりとローカル線のどんこうで向かうのですが、1分後に特急電車があります。
1時間先のどんこうに乗り、30分かけて宮津まで行き、そこでまた乗り換えに30分、そして1時間かけて福知山までのんびり帰るのがいつもの姿に較べて、さすがに特急電車の利便性には負けてしまいました。
今回だけは快適なシートでほとんど揺れない電車に乗るといった禁断の手を使って、帰ってしまったのでした。

 
旅の写真館