にっぽんの旅 関東 東京 八丈島

[旅の日記]

八丈島富士と南原千畳岩海岸 

 今回は八丈島の自然を楽しむことにします。
東京から300km近く離れ伊豆諸島のひとつである八丈島を、今回は巡ります。

 今回予約したのは、底土港近くの宿です。
バスで近くまでは来たのですが、ここから宿を探します。
両側にヤシの木が並ぶまっすぐな道路が続きます。
都会とは違い家と家の間隔が広いので、目印が少なくどこにいるのかが判りにくいのです。
こんな時、スマホの位置情報が役に立ったのでした。

 宿に着いて荷物を置き、まずは底土港周辺を探索します。
波か打ち寄せる防波堤に、動くものを見つけます。
波が引いたすきに、小さなカニがソワソワと動き出します。
波をかぶるとしばらくはおとなしくなるのですが、引くと再び動き出すことの繰り返しです。

 そしてここには、小さな浜辺があります。
「底土海水浴場」で、10月間近のこの時期に泳ぐ人はまばらですが、それでも家族連れは水を浴びています。
砂浜は火山岩が砕けて砂になったもので、一面真っ黒です。
浜で子供とはしゃぐ家族連れと、砂浜近くの草むらで若者が楽しそうにバーベキューをして楽しんでおり、実にほほえましい光景です。

 もう少し北側へ回ってみましょう。
この辺りは、荒々しい岩場の海岸線が続きます。
岩に打ち付けた波が、白い泡になって高く跳ね上がります。
上の方から鳥の鳴き声が聞こえてくるので見上げると、黒い頭と茶色い腹をしたスリムな鳥が電灯で羽を休めています。
伊豆諸島に分布することに「アカコッコ」いや「イソヒヨドリ」でしょうか。
ツグミの仲間で、「アカコッコ」ならば、国の天然記念物にもしてされている貴重な鳥です。
いずれにしても、普段は目にすることができない貴重な八丈の自然のひとつなのです。

 その先の海岸線に、石碑が建っています。
「抜舟の場」の文字が刻まれています。
流人の島となった八丈島には、流罪になった囚人が次々と送り込まれてきました。
誰もが故郷に帰りたいという気持ちでいっぱいで、この地に来ては帰るために島を抜け出すための思いを抱いていました。
270年の中で抜舟が実際に行なわれたのは15回で、内地までたどり着けたのはそのうちのわずか1回だったと伝えられています。
追手の目を盗んでの逃走劇だったのですが、見つかると死罪だということです。
そんな悲しい歴史が、石碑になって残されています。

 「神湊漁港」では漁から帰ってきた船が休んでおり、港はひっそりと静まり返っています。
防波堤で囲まれた港の一角では、足の届くところでシュノーケルを付け潜る練習をしています。
ダイビングスクールなのでしょう。
さらに湾内に目を向けていると、岩に当たって小さな波が立っている場所があります。
何気なく眺めていたのですが、よく考えると船が通る湾内に岩があること自体が危険です。
変だなと思いよくよく眺めていると、岩の頭が波で見え隠れするのではなく、どうも岩自体が上下に動いているようです。
これは、ますます変です。
凝視していると丸いものが見え、それがぱっくり割れたのです。
というより、頭が現れ口が大きく開いたのです。
そう、これはウミガメです。
水族館ではなく、正真正銘の天然のウミガメなのです。
はやる心を抑えて、再び頭が上がるのをじっくりと待ちます。
今度ははっきりと頭が確認でき、写真撮影にも成功しました。
さすがの八丈島だけあって、いつか「八丈島歴史民俗資料館」で見たウミガメが本当に目の前に現れたのです。
まるで、夢のようです。
興奮が修まらないうちに、宿に帰りつきます。
夜になると街路灯のない小路は真っ暗で身動きが取れなくなるので、早めの帰宅となったのです。

 せっかく八丈まで来たのですから、今晩は寿司を食べることにします。
事前の予約が必要な「島寿司」ですので、旅に出る前に予約をしてきたのですが、店では時間になっても電気がついていません。
しばらく待っていると1台の車が到着し、目を丸くしておかみさんが降りてきます。
話を聞けば家族が入院し本日は急遽閉店をすると、留守番電話で連絡をくれたとか。
よくこの時間に店に寄ったものだと内心安心したのですが、今晩の食事にありつくことができません。
島の食堂は早く閉まるところも多く、何よりも予期せぬことなのでほかの食堂を今から調べなければいけません。
仕方がないので、お薦めの店を紹介していただくことにします。
そして紹介されたのがそこから店からほど近い寿司屋で、口をきいてもらい入れてもらうことになりました。
通りすがりの観光客に対して親切にも寿司屋まで車で送ってくれ、おまけにビールまでご馳走してくれていたことには、言い表せないほどの感謝です。
(実はこのあと島海苔のお土産まで用意していただいていたのです)
注文した「島寿司」は通常の漬けのものではなく、江戸前寿司で島の食材を使ったものです。
この店も、漬けの「島寿司」は事前に予約しておかなければ食べられなかったのです。
ちょっと残念です。
寿司のあとには、サトイモができてきます。
これも八丈の常識なのでしょうか。
添えてある味噌をつけて、美味しくいただいたのでした。

 寿司屋から宿までの帰りの夜道で、おかしな虫に遭遇します。
カマキリのようなサソリのような細長いもので、道にへばりついています。
後で知ったのですが、亜熱帯に生息するサソリモドキです。
月明りのためその時は目を近づけて観ていたのですが、クモの仲間と知った今となってはゾッとする行為だったと反省しています。

 さて翌日は、レンタカーで「八丈富士」を目指します。
島の北側に位置するこの山は、そのなだらかな稜線が富士山に似ていることから「八丈富士」と名付けられました。
山の上は雲がかかっていますので、雲の切れるのを待ちます。
「八丈富士」には、山の南側から上っていきます。
ただ借りた小さな車では、エアコンを切らなけれな坂道を進むことができません。
仕方なく窓を開けてみたのですが、心地よい社内に風が入ってきエアコンがない状態でも全然苦にならないことに気付きます。
途中に眺めの良い場所がありますしたので、車を止めてみます。
今までいた「底土港」は、岸からは波が打ち寄せ荒々しい海だったのですが、上から見ると青い綺麗な水面をしています。
「底土港」のある三根地区は、木々の緑と海の青で覆われた美しいところということを改めて認識するのです。
ただ空には、綿飴のような雲が頭の少し上のところに広がっています。

 再び車は先に進み。「八丈富士」の7合目を1周する「鉢巻き道路」に差し掛かります。
ここからは「鉢巻き道路」をゆっくりと進み、島の四方を眺めて回ります。
すすきの間からは、真っ青な太平洋が見えてきます。
一方の山頂方向の山の姿はなだらかな優しい形をした山で、とてもこの島を造った火山がそびえているようには思えません。
今回の行きの飛行機で八丈島上空の雲の割れ目から一瞬見えた「八丈富士」の火口ですが、次回訪れるときにはそれなりの歩く覚悟をして「お鉢巡り」をしたいものです。

 山の周りを1周して「ふれあい牧場」に戻ってきました。
牛が放牧されている牧場では、真ん中を歩道が通っており牛たちと触れ合うことができます。
まっすぐに伸びた通路とその先の展望台からの八丈の町の眺めは、広々としており八丈の観光スポットにもなっています。
ここで搾りたての牛乳を使った濃厚なアイスクリームを食べることを期待してきたのです。
ところがレストハウスに人影はなく、夏休みとゴールデンウィークしか開かないとこの時知ったのでした。

 さらに山を半周し、帰りは山の北側から下りることにします。
「八丈小島」が目の前に見えてきます。
太平山を中心とした崖で囲まれてた島で、かつては人も住んでいました。
源為朝が自害したとの伝説のある場所でもあります。
八丈本島と同様に流民の島で、八丈本島との間には流れの速い海流があるため脱出不能の島とも言われ、特に重い刑を受けた者がここに収容されていました。
今では太平洋に浮かぶ美しい島の姿を放っています。

 「八丈富士」を下り切ったところに「大越鼻灯台」があります。
1961年に火を灯した灯台で、八丈島の北の端の海路を守っています。
灯台から「八丈循環線」を挟んだ陸側には、「アロエ園」があります。
一面にとげのあるアロエの葉だらけの畑が広がっており、異様な雰囲気です。
アロエの花が咲き誇るころには、美しい畑と化することでしょう。

 ここから先の道は、海岸線に沿って走ります。
「八丈富士」から流れ出た溶岩が海岸線まで流れ着き、ここで一気に冷やされて岩となった場所です。
一面が真っ黒の岩だらけの海岸です。
静かな波もこの岩肌に押し寄せると、ごつごつした岩のくぼみに入り込み、行き場を失って空高く白波としてしぶきを揚げます。
「南原千畳岩海岸」では、そんな様子を見ることができます。
足元の岩には、溶岩が流れ出たときに着いたと思われる筋が入っています。
爆発のすごさが見て取れます。
岩に打ち寄せる波を見ているだけでも、飽きることがありません。
八丈島の観光シーズンも済み人が来ることもないこの場で、しばらくここで座り込んで海を眺めることにします。

 さて島の北半分の観光の最後は、大賀郷地区の八丈島空港の南に広がる「八丈島公園」に立ち寄ります。
東西方向には空港の滑走路の半分ほどの距離を有し、木々が植わった広い公園内はかなりの距離を歩き回ることができます。
自由に出入りできる公園には、キョンが飼われています。
伊豆大島では増えすぎて農作物に被害が出て嫌がられているキョンですが、ここは八丈島では珍重されかわいがられているのです。
ビジターセンタでは、亜熱帯特有の珍しい植物も育てられています。
海水を満たした水槽には、サンゴの間を熱帯魚が泳いでいます。
東南アジアなどの熱帯地帯で見られる「ヤコウタケ」も、八丈島では目にすることができます。
ビジターセンタにはその個体が展示されており、緑色をした光を発光する珍しい植物です。

 「八丈島公園」を出て、大賀郷の町でお腹を満たしてくれたのは、この地方の特産品ともなっているクサヤです。
クサヤとは干物のひとつで、魚醤に似た独特の匂いをもつ発酵液に魚を浸けた後、これを天日干しにしたものです。
匂いはするものの適度な酸味がついて、魚の開きそのままよりも旨みがあり、ご飯に合うって感じでしょうか。
若いころは遠慮していた魚ですが、気が付くと魚ばかりを好んで食べるようになっている自分に気が付いたのです。
今回は、そんな魚と大自然を満喫させてくれた八丈島の旅でした。

     
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