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[旅の日記]

箱根 

 今回は、箱根の旅です。
近代的な小田急ロマンスカーで箱根湯本駅に降り立ったかと思うと、今度はレトロなムードたっぷりの箱根登山電車に乗り換えます。
1919年に開通した山岳鉄道である箱根登山電車は、オレンジとグレイに塗られた電車です。
発車するとほどなく上りの坂道に差し掛かり、パンタグラフのきしみ音とともにモータのうなり音が一段と大きくなっていきます。
1000分の80という急勾配で曲がりくねった線路を、ゆっくりとそして力強く電車は登っていきます。
強羅駅までの40分間、3回のスイッチバックで先頭と後方が入れ替わり、斜面をジグザグに進みます。
グイグイ登り切り、次第に変わる周りの景色を見ながら、強羅駅までの電車の旅が続きます。

 強羅駅からは、ケーブルカーで早雲山駅まで登りきります。
そしてその先はロープウェイです。
フニテルと呼ばれる2本のロープでゴンドラを吊る方式は、この地方の強風にも耐えることができるものです。
四方がガラス張りになった車内からは、右手奥に富士山が、そして下には地面からもうもうと湧き上がる火山の煙を見ることができます。
途中の乗り換え駅である大涌谷で、一旦下車することにします。

 ここ大涌谷は箱根火山の噴煙地で、あちらこちらから硫黄の匂いのする煙が立ち込めています。
道が整備されていて、決められた散策路の範囲内で噴煙のそばまで見て回ることができます。
20年ほど前に来た時に食べた卵をまた食べたいという思いで、今回またやってきてしまいました。
湧き出した温泉に浸けて作られたゆで卵は、硫黄と鉄分が反応し墨を塗ったかのように殻が真っ黒です。
1個で十分なのに、5個入りのセット販売しかしておらず、しぶしぶ買ってしまいます。
まだ熱い卵をコンクリートで造られた食卓?にぶつけ、殻を割って食べます。
やはり思っていた通りの旨さです。
5個の卵をぺろりと平らげたあとで、健康のことを気にしてか朝食で食べたゆで卵を後悔したのでした。

 再びロープウェイに乗り、芦ノ湖の畔の桃源台まで一気に降ります。
ここからは海賊船に乗って対岸の箱根町港まで向かいます。
ところが船は出た後、次の便まで1時間もあるということなので、少し早目の昼食を取ることにします。
さすがにここでは卵の入っていない料理を選んだのでした。
逆光で芦ノ湖の波立つ湖面が光るのを眺めながら、食事をしたのでした。

 さて海賊船の中は、日本人と中国人が入り混じり、席がなくなるほどの混み具合です。
ゆっくり食事をしてから乗船したので、窓側の席ではありませんがかろうじて座ることはできました。
座れた者にとっては、ゆったりとした船の旅です。
食後で窓から入る日差しのせいで、眠くなるの我慢しての30分間でした。

 箱根町港で船を降り、先ずは箱根の関所跡に向かいます。
ここまでは何回か訪れたコースですが、箱根町から先に至っては未踏の場所です。
何度か来たこともあるのですが、いずれも遅い時間に来たために関所は閉まり見ることはできませんでした。
「入り鉄砲と出女」で有名な江戸への出入りの関門所であった箱根です。
江戸時代の関所の建物を再現し、近くの資料館では当時の様子を伝えています。
関所の裏手に丘の上の見張り台に上ることができます。息を切らして登る必要がありますが、ここからの富士山をバックにした芦ノ湖の眺めは素晴らしく、一見の価値があります。

 箱根町から元箱根までは、旧東海道の杉並木を歩きます。
昨日より飛散し出した杉花粉のために花粉症で悩まされているにも関わらず、薬とマスクといった完全防備で杉並木に挑みます。
遊覧船の混雑とは打って変わって、この歴史的遺産には誰も寄って来ないのは、残念です。
もっとも混まずに見て回れるので、当方にとっては都合が良いのですが。
杉の木の合間から斜めに差し込む陽の光に照らされて、枯れ木が敷き詰められた旧東海道を踏みしめて歩いたのでした。

 元箱根には、箱根神社があります。
遊覧船から湖に浮かぶ鳥居があることに気付いていたのですが、改めて訪れてみることにします。
元箱根港から参道は続き、少し坂を上った所に箱根神社はあります。
孝昭天皇の時代に聖占上人が駒ケ岳において神仙宮を開き神山を神体山として祀ったことが、箱根を山岳信仰の対象として一大霊場と考えられてきました。
真っ赤に飾られた本殿は、孝昭天皇の時代から続いており、江戸時代には箱根宿や箱根関所のために東西交通の要として栄えてきました。
ここで先ほどの海賊船の団体と合流してしまったようです。
初詣でもないのに、参りをするために列に並ばなければならない結果となりました。

 さてこの先は訪れる人もまばらな旧東海道を歩いてみます。
元箱根をあとに、バス通りに沿って湯本方向に歩いていきます。
20分ほど進むと、左手に大きな池が見えてきます。
お玉ケ池と呼ばれ、関所破りの罪で打ち首になったその首を洗ったとされるところです。
江戸に奉公に行っていたお玉は、故郷が恋しくなって奉公先を抜けだし、手形がないので箱根の裏山を越えようとしたところを捕えられたのです。
当時の関所破りの罪の重さを、うかがい知れます。

 その先でバス通りは箱根旧街道に交わり、ここからは旧街道を歩きます。
この辺りは昔の石畳が残っているところです。
決して歩きやすいとは言えませんが、当時の旅人の気持ちになって旧街道を一歩ずつ踏みしめていきます。
やがて休憩地である藁ぶき屋根の甘酒茶屋が見えてきます。

 運よく路線バスが来ましたので、甘酒茶屋から少しバスで移動します。
次に降り立ったのは畑宿です。
この辺りは静かな村ですが、寄木細工の工房、お店が何件か並んでいます。
白と黒の材木を互いに組み合わせ、それをあたかも1枚の板のように削って作る食器や置物、棚は見事なものです。
ただそれなりのお値段で、おいそれとは手を出すことができないのも事実です。
また、ここ畑宿は箱根旧街道石畳の入り口となっていたところです。
近くには一里塚もあり、江戸時代の街道を往来する旅人の4kmごとに作られた目印として、盛られた土の上に木が植えられていました。

 畑宿から先は再びバスに乗り、湯本まで一気に移動します。
湯本は言わずと知れた温泉町で、駅前には土産物屋がひしめいています。
ホテルや旅館も多く、須雲川に架かる朱色の橋がまぶしく見えました。

 最後には小田急で小田原に出て、日暮れ時間とどちらが早いかを競うように大急ぎで小田原城を見に行きます。
芦ノ湖の東岸を駒ケ岳を中心にぐるりと回る箱根探索も、よい天気に恵まれ無事終わることができたのでした。

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