[旅の日記]
看板建築の街並みをもつ石岡 
本日の散策の舞台は、茨城県石岡です。
常磐線の石岡駅を降り、ここから続く古い街並みを見て回ります。
江戸時代は水戸藩主 徳川綱條の叔父にあたる松平頼隆が、府中藩を制してこの地を支配していました。
水戸街道に沿う宿駅として、石岡は発展を遂げてきました。
町の中心部は、街道を挟んで間口六間あるいは三間の屋敷が整然と区画され、石岡の街並みを形作っていました。
ところが明治時代になると街道沿いの店舗は、これまでの伝統的な町屋に代わって看板建築と呼ばれる洋風の外観を持った店舗併用の住居に建て替えていきます。
今日はその看板建築が拡がる街並みを、ゆっくりと見ていきます。
駅から歩いて水戸街道に出る直前のところで、ギリシャ建築様式のひとつであるコリント様式風の柱頭飾りの綺麗な建物が、目に入ってきます。
「喫茶店四季」で、1930年ごろに建てられた貸店舗です。
木造2階建ての看板建築で、屋根に見える煙突風の飾りが独特の造形美を放っています。

その向かい側には、和風の建物「月泉堂」があります。
今回は時期が違いますが、ここでは2〜3月の「石岡のひな巡り」には、ひな人形や着物が展示され見学させてもらうことができるのです。
さて看板建築の建物は、この先の水戸街道沿いに広がっています。
「森戸文四郎商店」は、1930年ごろに建てられた飼料店です。
アールデコ調の外観は、洋風の意匠で飾る看板建築の代表的なものです。
柱にはレリーフが施され、窓は縦長の褐色タイルが飾られています。
「きそば東京庵」は、1932年ごろにに建てられた蕎麦屋です。
木造2階建ての和風食堂建築で、和風様式の代表格とする数奇屋風はこの辺りでも珍しいものです。
「すがや化粧品」は、1930年ごろに建てられた雑貨店です。
今は化粧品店になっており、柱建築やコリアント・イオニア様式風の柱飾りなど、洋風の香りが漂っています。
屋根部分の三角形の壁には、屋号の「すがや」が掲げられています。
看板建築ですが、他と較べ洋風色を色濃く出しています。
道の反対側に目を移しましょう。
黄色の建物は「十七屋履物店」です。
1930年に建てられた木造2階建ての看板建築です。
2階は中央の柱を中心に、左右に縦長の連窓が配置されています。
1929年の大火後に、この地区で最初に再建された建物です。
その隣には「久松商店」が、並んでします。
化粧品や雑貨を営む店で、1930年ごろのものです。
こちらも看板建築で、ドイツ下見板張りの正面外壁は横走りの長い板が貼られていますが、戦前はここに銅板が使われていたということです。
そして「久松商店」の隣の和風建築が、「福島屋砂糖店」です。
1931年に建てられた砂糖問屋で、木造2階建の商家建築です。
土壁漆喰塗りが多い土蔵造りの壁ですが、ここはコンクリートで塗り固められているのが特徴で、非常に珍しいものです。
黒塗りの壁が重厚感を感じさせます。
「丁子屋」は国の登録文化財にも指定されている染物屋です。
江戸時代末期に建てられたもので、中ではコーヒーや抹茶を頂くことができるほか、この地方の特産品の販売が行われています。
そして筋向かいの「中藤精米店」も和風の趣のある造りです。
その先に「金刀比羅神社」があります。
大掾家が軍神、守護神として香取神宮を祀ったことにはじまります。
1827には社殿を造営して、讃岐の国の金刀比羅神社を勧請して祀っています。
総本社を讃岐琴平町に置く金刀比羅神社ですが、ここも海の守り神として銚子や那珂湊などの漁民から信仰されてきました。
この辺りで看板建築の建物も見られなくなります。
水戸街道を石岡駅側に、一旦戻っていきます。
やがて左手の路地に入り、「石岡市民会館」を目指します。
その途中にも歴史のある建物が目につきます。
コンクリートの壁で固められた建物は、ここも例にもれず看板建築の「平松理容店」です。
1928年に建てられた洋風建築で、ここは大火を免れたためにコリント様式風にアカンサスの葉を施した天蓋や理容鏡や理容椅子が今も残っています。
「石岡市民会館」には、ちょっと変わった趣のある門があります。
これは「陣屋門」で、1828年に建てられたものです。
この地を治めていた府中藩は水戸藩の分家として、参勤交代を免れ江戸に定住することが義務付けられていました。
松平家の居城や屋敷が石岡に造られることはなく、その代わりに役所としての陣屋を、今の「石岡市民会館」の地に置いていたのです。
この陣屋の門のひとつとして、「陣屋門」が残されています。
その近くの石岡小学校に足を運びましょう。
小学校の敷地内には「ふるさと歴史館」があります。
敷地内ということで最初は入るのを躊躇したのですが、思い切って小学校の正門を越えて歴史館に行ってみましょう。
ここはかつて常陸国府 大掾氏の府中城や府中松平家陣屋など石岡の政治の中心だった場所です。
歴史館では、石岡の歴史を示す資料や出土遺物など展示されています。
さて石岡の町も歩き終え、石岡駅に戻ってきました。
石岡駅には、祇園祭で使う赤い「館獅子」が飾られています。
1528年から続く諏訪神社の祭りです。
祭り当日には、この獅子頭に5mにも及ぶ木竹縄で編んだ胴体に衣を着せ、御輿の露払いとして町内を練り歩くのです。
昭和初期の看板建築が残る町、石岡を廻ってきました。
水戸街道にこんな一角が残っていたことに、驚いた1日でした。
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