にっぽんの旅 関東 千葉 銚子

[旅の日記]

銚子 

 ローカル線の旅、これが今回の旅のテーマです。
都内からは総武線、成田線を乗り継いでやってきたのが銚子の街です。
房総半島の先端の銚子は、暖流と寒流がぶつかる絶好の漁場として古くから栄えてきました。
そしてその温暖な気候で育ったもう一つの産業が醤油製造です。
ヒゲタ醤油、ヤマサ醤油など、銚子の街を代表する醤油工場を見学してみます。

 今回訪れたのはヤマサ醤油です。
お土産に醤油を頂けるという文句につられて、事前予約を入れていました。
銚子駅から10分足らずの所に、工場はあります。
正門をはいると大きな醤油樽が出迎えてくれます。
見学は、醤油の歴史や製造工程を説明した映画のあと、実際に大豆の保管庫、もろみの様子、製品梱包の工程を見て回ります。
工場全体に醤油の匂いが立ち込めており、同じ千葉県のもう一つの醤油拠点である野田の街の匂いを思い出させてくれます。
半年かけて醤油を丹念に作り上げる苦労は、工場とはいえ農業に似た時間と相手(作物)の機嫌を取りながら進めていくと言った苦労があり、頭が下がります。

 工場の説明も終わり、最終地点にはちょっとした売店があります。
実はここの醤油ソフトクリームを食するのも、今回の旅の目的のひとつでした。
醤油味のソフトクリームってどんなのだろう?
醤油のコクと辛味が効いたものと思いきや、食べてみるとキャラメルのような甘みが口の中いっぱいに広がります。
これって結構いけるのでは、ここだけの販売だけではもったいないのではないでしょうか。

 さて工場の裏手は銚子電鉄の仲ノ町駅です。
ここにも今日のお目当てがあります。
もちろん電車に乗ることそのものが目的なのには変わりありませんが、ここ仲ノ町駅には「デキ3」と呼ばれる珍しい電気機関車が保存されています。
もともと宇部炭坑で使われていたドイツ製の機関車ですが、1941年から44年間銚子電鉄で活躍していたものです。
凸型の小さな車両で、客車を引張ってていたことには、驚かされます。

 待つこと20分、やっと外川行きの電車がやってきます。
やってきたのはゲームソフト「桃太郎電鉄」の車両です。(写真はのちに銚子駅で撮影したもの)
車体のみならず座席にも、桃太郎伝説のキャラクタが描かれています。
さらには途中の駅にも、キャラクタの貧乏神の石像が立っています。
電車は1両編成の単線で、左右に大きく揺れながら進みます。
始点の銚子から終点の外川まで6.4kmの距離が10駅で駅の間隔はさほど遠くないのですが、40km/hの速度の割には揺れるものですから相当進んだような錯覚に陥ります。

 そして途中下車したのは、本銚子駅です。
この無人駅に下りる人はまばらですが、銚子外港まで歩いて進む無茶な計画を立ててしまったのです。
何故って? それは少しでも港に近づけば美味しい魚が食べられるのではないか、といった安易な考えからです。
駅を降りて、先ずは海側に進みます。
この辺りも魚市場があり、港には外洋から帰ってきた大型漁船が並んでいます。
さらに半島の先まで進んでいくと、千人塚に出くわします。
ここは漁で遭難した人々を弔うお墓です。
銚子外港は、その先にありました。
そこで次の課題「美味しい魚を食べる」を実行です。
今回は丼で攻めてみます。
地元の食堂らしきところでメニューを開くと、聞きなれない名前が載っています。
「マグロのタタキ丼味噌味」興味もあって、早速それを注文することにしました。
出てきたのはマグロの切身(いや骨からこすり取ったものといった方が適切かも)が、どっさり乗った丼です。
わさび醤油をかけていただくこの新鮮な丼は、やはり無謀な計画の産物でしょう。

 電車の時間が迫っていたので、慌ててもと来た本銚子駅まで戻ります。
もう時間が過ぎているかなと思いつつも駅に向かって走ると、ちょうど電車の扉が閉まり走りだす所です。
正確にいえば一旦走りだしました。
ところが私が走っている姿を見て、扉を開けて待ってくれたのです。
乗り遅れれば次の電車まで半時間待たなければいけなかったところを、ローカル線の心の温かさに感謝です。

 汗を拭きながら、次なる目的地 犬吠駅までしばしの休憩です。
犬吠駅は房総半島の最西端で、犬吠埼灯台が有名です。
駅を降り、海岸線に沿って造られている遊歩道を歩くことにします。
海面に姿を現した筋状の模様をもつ岩肌に、波が押し寄せ白い水しぶきを吹き上げる様は、見事でもあり恐ろしくもあります。

 灯台はその先の丘の上にあります。
真っ白な灯台ですが、実は193,000枚の煉瓦を積み重ねて造られたものなのです。
風雨にさらされる煉瓦の灯台が、今も現役で働いているのには驚かされます。
灯台の中は99段の階段がらせん状に配備されており、息せき切らしてこれを登りきると、どこまでも青い太平洋を眼下に臨むころができます。
そして北側には、これまでの岩場とは打って変わって、1kmの砂浜が続く君ケ浜が続いています。
灯台の1階は資料展示館にもなっており、犬吠埼灯台の歴史を知ることができるのです。

 帰りの銚子行きの電車には、少し時間があります。
そしてその前に反対の外川行きの電車があることを知り、それならば外川まで行って戻ってくればいいじゃないかという、またしても単純な発想が頭をよぎります。
せっかくここまで来たのですから、1駅先の銚子電鉄の終着駅まで行かない手はありません。
それに「弧廻手形」と呼ぶ1日乗車券もあるいことですから。
ということで、辿り着いた外川駅はNHKのテレビドラマ「澪つくし」の撮影現場となった駅です。
終点の駅という賑やかなイメージとは打って変わって、静かな漁師町です。
そしてここにも銚子電鉄のもう一つの車両が待機していました。

 こうして再び電車に揺られて帰るわけですが、忘れてはならないのが「ぬれせんべい」です。
経営悪化で一時は廃線に追い込まれた銚子電鉄ですが、「ぬれせんべい」のおかげで現在の勢いを復活しました。
湿気たせんべいのようですが、特産の醤油の味がしっかり付いていて意外と美味しいのです。
それに加えてイワシの銚子漬けをお土産に総武本線に乗り込み、本日の旅は終了したのでした。

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