にっぽんの旅 北陸 富山 黒部

[旅の日記]

立山黒部アルペンルート 

 前から行きたかった「立山黒部アルペンルート」です。
バスで揺られていつの間にか黒部に着いたという経験はあるのですが、今回は本格的に松本から富山までを貫きます。
といっても登山をするではなく、あくまでも公共の乗り物での旅です。

 松本からは信濃大町までを、JR大糸線に乗り込みます。
事故で電車が遅れていたこともあって、車内は通学時間の学生でいっぱいです。
やがて人の数もまばらになってき、遠くに穂高連峰の山々が臨めます。
幸い雨は降っていないのですが、台風崩れの熱帯低気圧が近づいてきているだけあって、山の頂はガスがかかり雲行きが怪しい状態です。
しかしここまで来たからには引き帰ることもできず、雨天決行の覚悟です。

 信濃大町駅では、扇沢行のバスに乗り換えます。
ちょうど電車の到着を待っていたかのように、バスは発車します。
大町温泉郷、日向山高原を越えて、40分のバスの旅です。
バスは街中から山を登り始め、着いたのは扇沢です。

 ここで待っているのは、「関電トンネルトロリーバス」です。
立山までの切符を買いこみ、トロリーバスの時刻を予約します。
ここでは直接扇沢まで観光バスで来たツアー客の加わり、改札の前で大勢の人が列をなしています。
そこに現れたのが、トロリーバスの駅員。
この先の黒部ダムの説明を始めたかと思うと、弁当の売り込みに入ります。
「この先邪魔だけども、買っていきませんか」「レストハウスは今日は空いているけど、弁当もいかが」など、巧みな話術は爆笑を呼び待ち時間を飽きさせません。

 一方のバスは、日本に2ケ所しか走っていないパンタグラフで電気を供給するトロリーバスです。
2ケ所とは、この扇沢・黒部ダム間と、その先の大観峰・室堂間だけなのです。
車体がすれすれで通る1車線の狭いトンネルの中を、バスは走ります。
途中、照明が青い光を放っている所が破砕帯で、わずか数十mの距離を掘るのに通常なら10日で抜ける距離に7カ月を要した難所です。
破砕帯とは、岩盤の中で岩が細かく砕けその隙間に地下水を大量に含んだ、軟弱な地層のことです。
掘っても掘っても4度の冷水が降ってき、天井が壊れて掘り進めないのです。
10本の水抜き用のトンネルを掘り、水を抜きながら薬液を注入してセメントを固めながら進みました。
映画「黒部の太陽」の場面が、脳裏に浮かびます。
1車線だった道路もトンネルの中央部分では一時的に2車線に広がり、ここで反対方向から来たバスとすれ違います。
わずか16分のバスですが、ワクワクするトンネル走行です。
そしてトンネルの中の県境を越えて、長野県からすでに富山県に入っていました。

 そして着いたのが、黒部ダムです。
トロリーバスを降りると、きつい階段を上り詰め、その先の展望台に出ます。
先日までの雨で水かさも増え、本日は上段からの迫力ある放水です。
ダムから散る水は、川底を傷めないように霧状にされて、放水されます。
流れ落ちる先端では、水が虹になって輝いています。
それではと、放水の真下の展望谷まで階段を下ってみます。
上から降ってくる水を斜め下で見るのは、迫力があります。
クタクタになりながら、中腹まで再び階段を登ります。
今度は堤防の上を散策できます。
扇型に弧を描いた道路の上を歩きます。
ダム側の黒部湖では、優雅に遊覧船が走っています。
心配していた天気ももっており、太陽まで出てきて気分上々です。
往復して戻ってきて気付いたのですが、次なる乗り場は反対側のトンネルの中です。
慌ててまたしても、今戻ってきた堤防を進みます。

 黒部湖から黒部平までは、「黒部ケーブルカー」で進みます。
多くの客が黒部ダム観光なのか、ダムを過ぎると極端に人の数が減ります。
恐らくここに居るのは、一部のツアーと信濃大町から自力で来た人のみでしょう。
ケーブルカーは、トンネルの中をひたすら進ます。
そして着いた先が、黒部平です。

 黒部平では、次のロープウェイの発車時間を待つ間、待合室の外から周りの山々を眺めることができます。
西に大観峰、東には今やってきた黒部湖を臨むことができます。
5分前までいた黒部湖が、米粒のように小さく見えます。
そして大観峰には、ところどころに雪が見えます。
夏を越しこれから冬に向かおうという時に、雪が解けずに残っているのです。

 「立山ロープウェイ」は、黒部平から大観峰の1.7kmを7分で結んでいます。
そしてその間にはケーブルを支える柱は1本もなく、このワンスパン方式としては「立山ロープウェイ」が日本最長のロープウェイなのです。
眼下には低い木々が立ち並び、その間に糸を引いたような長い長い沢があり、水が流れています。
先ほどの黒部平からの眺めが、360度どこでも見れる状態です。

 大観峰でも、駅の上の展望台に登ります。
階段状の展望台からは、黒部湖がさらに小さく見えます。
ここまでくるとかなり涼しく感じ、扇沢で半袖から長袖に着替えた甲斐がありました。

 さてここから先は、2度目のトロリーバスです。
立山トンネルトロリーバス」は、室堂までの3.7kmの距離を10分で結びます。
ここでも、破砕帯が見つかっています。
例によって青い照明で示されているのです。
そしてトンネルの真ん中でバスがすれ違うのも、先ほどの関電トンネルと同じです。

 トロリーバスが到着したのは、室堂です。
黒部ダムと並び、本日の目玉がここ室堂なのです。
とはいえ、まずはお腹を満たしてやります。
黒部ではダムの形にご飯を盛ったカレーも有名ですが、ここのレストランで富山の名物の白エビを食べたかったのです。
白エビ丼に、さらさら汁とサラダが付きます。
白エビとニンジン、インゲンのかき揚げに、甘いたれをかけて食べます。
さらさら汁は、厳冬の立山越えを決行した戦国武将佐々成政に由来する地元の伝統料理で、季節の野菜が入っています。
ニンジン、ダイコン、インゲンなど、程よい味付けで身体も温まります。

 外はというと、霧が掛かって立山が見えません。
ところが10分に1度の割合で、さっと霧が流れ青空が覗きます。
なんと身勝手な山の天気でしょうか。
まずは、「みくりが池」の周りを歩き始めます。
池の周りで、霧が晴れるのを待ちます。
すると一瞬だけ対岸が見えたかと思うと、あっという間に真っ白の先が見えない湖に戻ってしまいます。
この一瞬がシャッターチャンスなのです。
それでは池の周りの遊歩道を、左回りに進みます。
遊歩道と言えども、これが意外と足に来ます。
荷物をコインロッカーに預け、極めて軽い身なりになったものの、黒部ダムの階段が今になって効いてきたようです。
対岸の「みくりが池温泉」の山小屋で、はやくも一休みです。
ブルーベリーソフトクリームが、喉を潤してくれます。
山々を臨む屋外のベンチに座りクリームを食べながら、流れていく霧を眺めています。

 足が休まると、「みくりが池」をちょっと離れて「地獄谷」に向かいます。
硫黄のガスの臭いが立ち込み、それが霧と重なって少し先しか見えません。
ときおり晴れる合間をぬって、湧き上がる噴煙を確認します。
「人体に有毒」との立て看板がある位ですから、長く居るのは良くないのでしょう。
いつ霧が晴れるかと20分ほど粘りましたが、諦めることにします。
そしてここまで来ると、すれ違う人は重装備の身なりと大きなリックを背負った人ばかり。
寒さには備えていますが軽装の身なりでは、引き返すことにします。

 「みくりが池」の反対側の遊歩道を歩いて行くと、茂みから雷鳥が顔を覗かせています。
富山県の鳥で、旧国鉄の特急の名前にもなった鳥です。
周りの色に溶け込んでおり「運が良ければ見れるかも」と言われていただけに、感激です。
鳥に驚かせないように静かに眺めていましたが、やがて木々の間に隠れてしまいました。

 やがて、「みどりが池」に出ます。
そしてその先に立山堂山荘があり、これを向けるとトロリーバスの駅に戻ることができます。
こんなはずではなかったのですが、足がふらふらになっており、この先の「立山高原バス」の順番を待つことにします。

 「立山高原バス」は、地上を走る普通のバスです。
美女平までの50分を、高度1500mほど山を下りて行きます。
春先であれば「雪の大谷」と言われる高さ20mにもおよぶ雪の壁の間をバスが走るのですが、さすがに9月ともなれば夏の暑さで雪は融けてしまっています。
代わりに、緑の木々がいっぱいです。
腰の高さぐらいの木々で埋め尽くされた草原を、バスは抜けて行きます。
そして至る所に「餓鬼田」と呼ばれる小さな池が、口を開けています。
それを越えると、今度は一転して高いブナの林に道は入ります。
標高に応じて景色の変わる様子を眺めながら、バスは美女平に到着します。

 まだまだ乗り物は続きます。
美女平からは、「立山ケーブルカー」に乗車します。
こちらは地上を走るケーブルカーですが、先頭に貨車を連結しています。
黒部ダムを開発する際に工事資材を載せたことが始まりで、いまではスキー客の荷物やスキー板を運搬するのに使われています。
もちろん本日は、空の台車です。
ケーブルカーの乗車中に、ここまで何とかもっていた天候も、どうやら本格的に降ってきました。
もうこれまでかと思っていたところ、到着した立山では、雨粒すら感じない状態です。
ケーブルカーの7分間は、何だったのでしょうか。

 この時期の立山駅は、ひっそりとしています。
それこそ人もまばらで、ことさら立ち寄る店もなく先を急ぎます。
富山駅までの「富山地方鉄道」が、本日の最終の乗り物となります。
ここから1時間、山の間を転がり落ちて行くような単線の電車で、電車の旅を楽しんだのでした。



JR大糸線
距離35km/時間64分




アルピコ交通バス
距離18km/時間40分


関電トンネルトロリーバス
距離6.1km/時間16分







黒部ケーブルカー
高低差373m/時間5分



立山ロープウェイ
高低差488m/時間7分



立山トンネルトロリーバス
距離3.7km/時間10分



立山高原バス
距離23km/時間50分



立山ケーブルカー
高低差502m/時間7分


富山地方鉄道
距離34km/時間60分




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