にっぽんの旅 北陸 石川 山中

[旅の日記]

ゆげ街道の山中温泉 

 加賀温泉駅から北鉄加賀バスでやってきたのは、「山中温泉」です。
片山津温泉、山代温泉とともに加賀温泉郷を構成するひとつの温泉です。
これら3つの温泉のうち、最も内陸にあるのが「山中温泉」です。

 バスの終点である「山中温泉バスセンター」からは、今回行きたかった「鶴仙渓」がすぐです。
早速、「鶴仙渓」が広がる「大聖寺川」に向かいます。
川に架かる橋が「黒谷橋」で、橋を渡って対岸の遊歩道を川沿いに歩いていきます。

 橋を渡りきったところには「芭蕉堂」があります。
1689年に山中温泉を訪れた芭蕉は、この地で9日間滞在しています。
芭蕉が詠んだ句には、「この川の黒谷橋は絶景の地なり、行脚の楽しみここにあり」と山中温泉を絶賛しています。
「芭蕉堂」は松尾芭蕉を祀る御堂で、1910年に芭蕉を慕う全国の俳人たちによって建てられました。
芭蕉を思わせる質素な造りが特徴です。
また横にある案内板は、なんと九谷焼でできていたのです。

 ここからはしばらくの間、「鶴仙渓」の遊歩道を歩いてみます。
川のせせらぎが小石に当たり、白波をあげています。
対岸には人工物である旅館が迫っているのですが、不思議と自然の中に溶け込んでいます。
鳥のさえずりも聞こえ、心が癒される時間でした。

 少し歩くと出てきたのが、「あやとり橋」です。
全長94mの橋は、左右に曲がりS字型を描いています。
これに加えて左右に張り出す支柱で、実際以上に曲がっているような錯覚を起こします。
華道家 勅使河原宏の設計で、あやとりの糸をイメージして造られています。

 橋から川辺に下ったところに、川床があります。
山中温泉出身の和食料理家 道場六三郎が監修した甘味処です。
「大聖寺川」を眺めながら川床で足を休めたいところですが、やがて昼食の時間です。
ここは我慢して、美味しい昼食を待つことにします。

 遊歩道もここでおよそ半分を歩き終えたところです。
さらに進んでいきます。
川は切り立った崖のなかを走っており、ごつごつした岩肌に囲まれています。
そのところどころに滝があり、「大聖寺川」に水が流れ込んでいます。

 また木の根元には苔がむしており、鮮やかな緑が広がっています。
ふんわりとした柔らかい緑の絨毯です。
遊歩道にある橋も、見事なほどに苔に覆われています。
気温は高いのですが、川辺の木陰に入った途端、涼しさを感じるのでした。

 さて遊歩道はここで終了です。
道の終点は「こおろぎ橋」で、総ひのき造りの立派な橋です。
「大聖寺川」に枝を張り出したモミジの中を通って対岸に渡ります。
秋のシーズンには、これらが一斉に紅葉しさぞ綺麗なことでしょう。

 橋を渡り切った所にあるのが、「岩不動」です。
垂直に切り立った岩に祭壇が設けられ、岩の割れ目から水が湧き出しています。

 神秘的な「岩不動」の先は、バス通りに出ます。
ここからが「ゆげ街道」で、「山中温泉」の中心地まで店が並びます。
そのひとつで、昼食にすることにします。
手打ちの蕎麦にとろろを掛けただけの単純なものですが、暑いなかを歩いてきたこの場面でぴったりのメニューです。
蕎麦湯もいただき、落ち着くことができるひと時でした。

 この先は「山中温泉」の中心街になります。
シンボルとなる共同浴場の「菊の湯」があります。
男湯と女湯は別の建物になっている珍しい造りです。
男湯の前には飲泉もあり、温泉を飲んで元気になることができます。

 「菊の湯」の男湯と女湯の間には、足湯もあります。
中央から温泉が湧き出し、足湯に流れ落ちる淵には湯の花がびっしりとついています。
これこそが温泉である証です。

 また女湯の建物の棟続きには「山中座」があります。
山中節の唄が流れる踊りのホールで、山中漆器も展示されています。
またここは、土産物店も兼ねています。
懐かしい映画の宣伝用のうちわ、そしてかつて使われていた人力車も並んでいます。

 「菊の湯」から建物の間の小道を進むと、そこにあるのが「芭蕉の館」です。
松尾芭蕉も訪れたことのある山中温泉ですが、その時に宿泊した「泉屋」に隣接していた「扇屋」の建物です。
1階には庭を臨むことのできる開放的な続きの畳の間があります。
そして2階にも窓側には縁側を配した造りになっています。
館内には、奥の細道に関する資料や「山中漆器」が展示されています。

 街中には山中温泉の名物である「娘娘(にゃあにゃあ)饅頭」も売られています。
街並みにあった風情のある和菓子屋を見つけので、思わすシャッターを押してしまったのでした。

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