にっぽんの旅 北陸 石川 輪島

[旅の日記]

輪島の朝市 

 輪島駅に来ています。
駅といっても、昔の「のと鉄道」の「輪島駅」。
今は道の駅「ふらっと訪夢」になっています。

 ということもあって、簡単にはここまでたどり着けません。
まずは「JR七尾駅」から「のと鉄道」で「穴水駅」までやってきます。
あとで紹介する永井豪の漫画が、車体だけでなく社内にも描かれています。
ヂィーゼルカーが、大きな音をたてて重そうに動き始めます。
以前は「穴水駅」から先も鉄道が通っていたのですが、経営の悪化もあり2001年に廃線になってしまいました。
「穴水駅」には、引退したパノラマカーの「のと恋路号」がホームに停まっています。

 ここから先は、バスによる移動です。
路線バスに乗り込み、終点の「輪島駅」まで山間部の農村をひた走ります。
バス停になかには、在りし日の「のと鉄道」の駅名がついているところがあります。
「三井駅」バス停は、駅舎がそのままバスの待合室になっており、道路の反対側のホームに待っていれば今にも列車が来そうです。
そしてここ「輪島駅」も昔の「のと鉄道」の駅で、建物の奥には当時のホームと線路が残されています。
「輪島駅」でバスを降りるなり、思わず駆け寄ってしまいました。

 さて輪島で有名なものといえば、朝市でしょう。
「輪島駅」から歩いて1qほどのところにある朝市通りに、早速向かいます。
平安時代に生産物を持ち寄り物々交換しあっていたのが始まりだとされ、室町時代には毎月4と9の付く日、そして明治からは毎日開催されるようになります。
通りの両側にはテントを張られ、野菜や魚、生活用品までもが並べられています。
フグや鯖からのどぐろまで、一夜干しをした干物が並んでします。
海鮮物はどれも安くて買って帰りたいぐらいですが、道中を臭いのきつい魚を持ってうろうろすることもいかず、ここは我慢します。
どの店も、気さくに声をかけてくる元気なおばちゃんばかりです。
秋の良い気候の時期だけあって、通りには観光客でいっぱいです。
そのテントと観光客の間を縫うように、行商のおばあちゃんがリヤカーを押して歩いて行きます。

 そんな中で、真っ黄色の餅である「えがら饅頭」を1つ買います。
けばけばしい黄色は、くちなしの実から取った色素で着色されているためです。
中にはこしあんが入っており、作り立ての温かさが一段とあんを甘く感じさせます。

 通りの終点近くには、「永井豪記念館」があります。
輪島出身の永井豪は、石森正太郎のアシスタントを経て、数々の作品を発表します。
それらは広い範囲に及び、デビルマンやマジンガーZのような戦隊ものから、ハレンチ学園やキューティーハニーなどのお色気ものまで、実に多彩です。
子どものころに隠れながらハレンチ学園の漫画を読んでいたことを、懐かしく思い出します。
来るときに乗った「のと鉄道」の車内に描かれていたのも、永井豪のチャラクタだったのです。

 歩いて行くと朝市通りも終点となり、ここから先は観光客の姿も見えなくなります。
その先の輪島港には、静かな漁村の風景があります。
漁を終えて帰ってきた数多くの船が停泊しています。
堤防で囲まれた湾内の至る所に、びっしりと船が停まっています。
これだけ多くの船を見ることのできる漁港は、そう多くはないでしょう。
朝のもっと早い時間なら、さぞ賑わっていたことでしょう。

さてここからは海岸線伝いに、いま歩いてきた逆の方向に戻ります。
すぐ隣が海で、この辺りから日本海が一望できます。
その先の突堤では、釣りを楽しんでいる人の姿も見かけます。
海には無数のカモメが羽を休めている、のどかな風景です。

 その先に円筒状の面白い形をした建物が、ポツンと建っています。
ここは「キリコ会館」です。
以前はもう少し町外れにあった「キリコ会館」ですが、新たにここに移ってきました。
キリコとは能登地方に古くから伝わる巨大な御神灯で、夏秋の祭礼の時に神輿のお供に担ぎ出されるものです。
各町内のキリコが集まり、壮大で美しい祭りが繰り広げられます。
ここ「キリコ会館」には、能登でしか見られないそんなキリコが多数展示されています。

 「キリコ会館」から南方向へ、輪島のバス通りに向かって歩きます。
昔の長屋をイメージした木造の「輪島工房長屋」があります。
食べ物屋、輪島塗の販売、箸作り体験ができます。

 その向かいには「重蔵神社」があります。
756年に泰澄により建立された、歴史のある神社です。
この地方に伝わる御陣乗太鼓の練習をしているようで、和太鼓の力強くリズムの良い響きが聞こえてきます。
先ほど訪れた「キリコ会館」で、夜に実演されるということで楽しみです。

 そろそろ足も疲れてきたときに、良いものを見付けました。
輪島温泉の「湯楽利」という足湯場です。
源泉かけ流しの足湯が無料で利用できとあって、寄って行かない訳はありません。
朝市で賑やかだった輪島ですが、観光客は朝市通りとバスの行き来で、ここまでは訪れないようでゆっくりと浸かることができます。
あまりにも気持ちが良かったものですから、20分ほども休んでしまいました。

 この先は路線バスに乗って、東側に少し移動します。
行き先は、棚田で有名な「白米千枚田」です。
この辺りの稲刈りは少し早目で、9月中には稲刈りを終えてしまいます。
訪れた時はちょうど稲刈りが終わった時期で、脱穀前の黄色い稲穂が干されています。
道路から眺めると、段々になった田が海岸線まで続き、その先には荒々しく白波を上げる日本海が広がっています。
坂に小さな田が何重にも重なって見えます。
田の間を道が通っていますので、歩いてみることにします。
田んぼとはいえ海岸線の崖を利用して作られたもの。所々に岩が顔を出しています。

 海岸までの上り下りで、休めたはずの足が再び悲鳴を上げようとしています。
道路まで戻り、売店で面白いソフクリームを買います。
ここの「千枚田ソフト」は、コーンに当たる部分が千枚田で収穫した米菓子で作られています。
火照った身体も休まり、海から吹く風が心地良く感じるのでした。

 再び輪島の町に戻り、ここからは輪島塗の探索です。
街中の朝市通りが切れるあたりには、「輪島塗会館」があります。
輪島塗漆器の販売と修理を行う店です。
眼の飛び出るような値段で、おいそれと購入するわけにはいきません。
2階に少しばかりの輪島塗の説明と展示があります。

 もっと輪島塗を知ろうと、さらにバスに乗り町の西はずれの「輪島漆芸美術館」に行きます。
正倉院の校倉造をイメージした外観の建物で、漆から漆器を塗って行く製作工程と輪島塗作品の紹介がされています。
和膳や重箱、組杯など、毎年使っている正月の道具にも輪島塗のものがあるかもしれません。
帰ってから確認してみることにします。

 心落ち着く輪島塗を見た時には既に夕方の良い時間になっていました。
これから宿に向かい今晩の海の幸を食べつくすことを考えると、急にお腹が空いてきました。
夜はこの地方の名物である「能登丼」です。
「能登丼」はいわゆる海鮮丼なのですが、いくつかの制約があります。
食材には奥能登のコシヒカリと水を使い地場の魚を使うこと、食器には輪島塗の器と箸を使うことを満足しなければ、「能登丼」とは呼べません。
また食事に使った箸は、持ち帰ることができるのです。
これにビール(こちらは勝手に飲んでいるだけ)を加え、魚のオンパレードです。

 食事を終え、教えられた「キリコ会館」での御陣乗太鼓まで時間があります。
5分もあれば行けると宿で休んでいたのが運のつき、寝込んでしまいとうとう本物の御陣乗太鼓には出会うことができませんでした。
しかし、朝市、輪島塗、千枚田を堪能した、輪島の旅だったのです。

 
 
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