にっぽんの旅 北海道 北海道全域 根室

[旅の日記]

北方領土を臨む根室 

 本日の旅は、日本の最東端の街を訪れます。
出発は北海道の釧路。ここから車で根室、そしてその先端の納沙布岬を目指します。
借りたのはレンタカー。ところがカーナビの使い方がわからず、設定したはずの「ノサップ」での順路指示では何故か帯広方面へ導かれます。
最初はカーナビを疑うことすらしなかったのですが、いつまでたっても帯広を目指す指示に疑問を持ち始めたのは、発車から20kmほど行った地点。
訳が判らず目的地を再設定して、旅の再開となったのでした。

 釧路市を離れ釧路町に差し掛かった時に、緑地の中に三角屋根の建物を見付けます。
別保公園のツリーハウスで、何気なく入ってみると中にはホッケーのスティックが展示されています。
アイスホッケーのルールを簡易化た長ぐつホッケーは、釧路町が発祥の地ということです。
北国ならではのスポーツです。

 車はさらに東へ走ります。
厚岸に差し掛かった時に、右手に海、左手に「あっけし展望台」が見えます。
厚岸の語源は、アイヌ語の「アッケウシ(オヒョウニレの皮をいつもはぐ所)」から来ています。
ここで車を止め、海を見張らす高台の「あっけし展望台」から、太平洋に浮かぶ島々を眺めます。
11月末の寒い風が吹く時期ですが、太陽が海面に反射してまぶしい光景です。
先を急がなければならないのですが、またまたの小休止で海を眺めて心を和めます。

 少し進むと、「道の駅厚岸グルメパーク」があります。
この地方の名産の牡蠣を使った牡蠣飯が、売られていました。
ちょうど訪れた時は山形フェアーが開催されており、よそ者なのにずんだ餅をお裾分けしていただきました。
おいしく頂戴したのは、言うまでもありません。

 ここからしばらくは、「別寒辺牛湿原」が続きます。
腰ほどの高さの草が枯れた茶色の大地のところどころに、沼地が口を開けています。
それを過ぎると、今度はどこまでも広い土地が続きます。
いたるところに、馬や牛が放たれています。

 1時間ぐらい走ったでしょうか。
「スワン44ねむろ」という道の駅があります。
ここは、「風蓮湖」が望める場所です。
「風蓮湖」では、多くのハクチョウが羽を休めています。
そんななかに、水鳥に混ざって鶴のつがいを見付けることができました。
保護された場所でもないのに、普通に鶴がいることには驚きです。
「スワン44ねむろ」のレストハウスでは、テレビドラマ「南極物語」のセットも展示されています。
根室で撮影されたドラマなのです。

 いよいよ、車は根室の中心街に入っていきます。
まずは根室本線の終着駅である「根室駅」を訪れます。
終着駅と言っても、すこしお店がある程度で見落としてしまいそうです。
お目当てはここでカニを食べることだったのですが、この時期はカニもウニも時期外れで、何件かあるカニ屋さんも地方発送の受付をしている程度で、駅前は静かなものです。
カニは諦めて、サクラエビのかき揚げの入った蕎麦を頂くことにしました。

 駅から遠くないところには、「明治公園」があります。
広い芝生の公園には、3棟の煉瓦造りのサイロが建っています。
実際に使われていたものが保存されているらしく、煉瓦にはうっすらと「○○酪農」の文字の跡が読み取れます。
この時期なのに、何故かタンポポが花をつけていました。
公園には、野鳥の森というエリアもあり、散策ができるようになっています。

 さて車は、根室半島の南側の海岸線に沿って、東へと進みます。
夏だと緑一面の草原であろう場所に、タンネ沼、オンネ沼などが続きます。
ふと右手の海岸縁を見ると、草原の中に埋まるように四角い小さな建物を目にすることができます。
トーチカ群で、ロシアからの攻撃の備えて旧日本軍が築いた防御陣地の跡です。
実際には使われることがありませんでしたが、銃窓などは当時のまま残っています。

 さらに車は東へ進みます。
風量発電用の巨大なプロペラが見えるころには、高い展望台が姿を現します。
いよいよ日本の最東端である「納沙布(ノサップ)岬」です。
東の海に向かって、正面に碑、その先には第二次世界大戦から未だロシアに占領されたままの北方四島を望むことができます。

その右手には、納沙布岬灯台があります。
そして左手には、「四島のかけはし」と呼ばれ北方領土返還を祈念するために作られたシンボル像が位置しています。
 それでは「北方館」に入ってみましょう。
北方領土返還運動の原点であるこの建物は、1980年に建てられました。
択捉(エトロフ)島、国後(クナシリ)島、色丹(シコタン)島、そして歯舞(ハボマイ)群島である北方四島は、終戦後にロシアに不法占拠され、その後の1956年の日ソ共同宣言で国交が再開されたにもかかわらず、未だに返還されていません。
それどころか、ロシアは北方四島の開発を進め、ロシア住民の定着を図っているのが実態です。
かつて住んでいた日本人が強制退去させられた島の歴史が、詳しく紹介されています。
北方領土を見るための双眼鏡が設置されており、島の状況を見ることができます。

 さらに四島を詳しく見るために、展望台に上ってみます。
正式には「笹川記念平和の塔」と呼ばれるこのタワーは、約100mの高さがあります。
標記上は3階と4階が展望台で、いずれもタワーのてっぺんに当たる場所です。
東に向かって、左から知床岳、平べったい国後島、歯舞諸島の水晶島を望むことができます。
水晶島の前には水晶島灯台が海に浮かんで見えます。
そして知床岳より南に見えるこれらすべてが、ロシアの実質支配下になっているのです。

実際、行き来しているロシアの巡視船が見えた時には、背筋がゾッとしたのでした。
奥歯に物が挟まった状態で、展望台を後にするのでした。
 さて納沙布岬から、「根室駅」近くまで一気に戻ります。
ここまで来たのならと、日本最東端の駅を訪れることにします。
根室本線の「東根室駅」です。
道路沿いの駅というイメージからは程遠く、民家の中の道をたどってこの駅に入ります。
駅前に看板があるだけで、木造りのプラットホームへは階段がかかっているだけで、駅舎も改札もなにもありません。
もちろん、非電化の単線です。
1日数本の列車をこなすだけの無人駅なのです。

 そろそろ陽が暮れようとしています。
この時期の北海道の日の入りは、4時過ぎと早いのです。
ところが今日中にもう1か所、どうしても行きたいところがあるのです。
信号がないのをよいことに、車を走らせ花咲岬に急ぎます。

 花咲港の近くに、花咲岬はあります。
岬の先端に花咲灯台があり、その下にあるのが「車石」と呼ばれる岩です。
柱状の玄武岩が放射線状に並び、車輪の形をしていることから、そう名付けられています。
直径5mの奇岩で、国の天然記念物にも指定されています。
灯台からの遊歩道は、日が暮れると足元が見えなくなることもあって、時間との戦いで見ることができたのでした。
その代り、花咲岬の戻った時には、真っ赤で澄み切った夕陽を見ることができました。
水面に赤い陽が映り、かつて見たことのないきれいな夕陽に出会うことができました。

 やがて陽もどっぷりと暮れ、辺りは真っ暗になりました。
ここから帰路釧路までは、エゾシカの飛び出しに注意しながら車を走らせます。
そしてありつけなかったカニは、駅弁で味わうことができたのでした。

 
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